HP-35用の電池ホルダー

Hewlett Packard社の電卓HP-35を入手しました。

発売されて間もなく50年という骨董品です。

ついうっかりというか、なんというか。歴史を調べているうちに欲しくなったんですよね。最近手元の古い計算機がじわじわと増えています。こういうものを欲しがるようになったのは意地汚くなったのでしょうか*1

HP-35のバッテリーパック

さて、HP-35は世界初のポケット関数電卓ですので電池で動作します。ところが、内蔵電池パックは単三型NiCAD二次電池を3本直列にしたものです。私が入手したHP-35の電池パックには液漏れの痕跡がありました。何しろカドミウムを使っているので、歴史的価値のある機械とはいえ電池パックは廃棄です。

電池パックがなくともACアダプタで動作するのですが、やはり電池で動作させたいではないですか。そこでいろいろ調べまわったところ、電池ホルダーを自作している方を何人か見かけました。そこでそれらを参考にして手元で電池ホルダーを自作することにしました。

まず電池ですが、本来の設計を考えればNiCd二次電池を使うべきでしょう。しかし、繰り返しますがカドミウムを使用しているという点が気に入りません。NiCd二次電池は今でも活躍の場を残していますが、私があえて電卓の電池に使う理由はないようです。

そこでNiMH二次電池を使うことにしました。幸い電圧はNiCd電池とほとんど同じため、3本直列にすれば必要な電圧になります。容量は小さくなりますが、それでも72年当時の単四型NiCd二次電池よりは大きいので問題になりません。NiMH二次電池は量販店で簡単に買うことができる点でも優れています。ただし、HP-35に内蔵したままACアダプタを装着してはいけません。充電回路が適合しないためです。電池は化学物質ですので規定以外の方法で充電した場合の結果は予測不能です。

次にサイズですが、本来の電池パックと同じく単三にしてしまうと、ホルダーの製作にHPの技術者および工場と同じ技量が必要になります。それは無理な相談なので、単四を使うことにしました。単三電池3本のバッテリースペースに単四電池3本を入れるのであれば、無理のない設計にできます。

電卓本体からはバッテリーパックに対する接点が出ていますが、これは多分リン青銅のばねであり、比較的簡単な工作で端子を作ることができます。

実際の工作

まず本体のバッテリースペースですが、下の写真のようになっています。2枚の金属片が立ち上がっているのが見えます。これが電極で、下(写真右手前)がプラス、上がマイナスです。

また、この写真ではわかりにくいですが、電極部分には山型の出っ張りが横方向に走っています。これは電池パックの谷型のへこみとかみ合って、電池パックの位置を正しく保持します。

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バッテリーホルダーのスペース

このスペースに合うように作った電池パックが下の写真です。汎用の単三電池ホルダーに両面テープでボール紙を貼り付けただけという雑な作りですが、しっかりと役目を果たしてくれます。

ボール紙は何枚か重ねています。一辺だけスポンジを貼っており、これはがたつきを防ぐためです。

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作成した電池パック

電池パックの裏側には、銅テープで電極を設けており、これが本体の電極と接します。ホルダーの構造上、間違った向きに装着することも可能です。そこで、その場合本体を壊さないように不要な部分をマスキングテープで覆っています。

また、写真では見ずらいですが、電線がホルダーの左下から出ています。この部分が本体の山型をちょうどまたぐよう、上下のボール紙の厚さを調整しています。こうすることでプラスとマイナスのコードが山型から分水嶺のように別れ、ホルダーが安定します。

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電池パックの裏側

実際に装着した様子を下の写真に示します。心持ち手前が浮き上がっているように見えるのは、本体の電極のばねによるものです。蓋は無理なく閉じることができます。

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装着した状態

設計の世界を変えた電卓

HP-35は世界初のポケット関数電卓です。1972年当時の市場調査ではこのような電卓の市場はないという結果が出ていたそうですが、395ドルのこの電卓は最初の年に10万台、そして3年間で30万台を売り上げました。

HP-35が登場する前は、技術者は計算尺と手回し計算機と数表を駆使して計算していました。それがHP-35の登場以降はいつでもどこにいてもキーをたたくだけで設計に必要な高度な計算ができるようになりました。

そういう意味でHP-35は設計の世界を変えてしまった電卓と言えます。

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電池動作中のHP-35。355を113で割った結果を表示している。

参考文献

Making New Battery Packs for the HP-35 Calculator : コードレス電話機用の三本パックNiCd電池を使う方法の解説。この方法だとHP-35のACアダプタから直接充電できる。工作も容易。

Classic HP 35 calculator comes back to life : こちらは携帯電話用のLiPo電池パックを使う方法。今となっては入手できない。

HP Calculator Battery Classic CASE HP 35, 45, 55, 65, 67, 80 : 単四電池のケースを改造して販売している人。今回はこの方法を参考に作った。

*1:意地汚いのは以前からであり、最近自制が効かなくなってきただけかも

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