トンデモの香り

はてなブックマークで大人気ですが、

  • 一般的に受け入れられているはずの説をおかしいと切り捨てている
  • 物理学の話に対して「論理学では解決済み」などという
  • 粒子の波
  • 自分が掲げている未検証の仮説を、すでに広く知られている説と断り無しに同列に扱っている。

など、妙な匂いがぷんぷんします。「粒子の波」ってエーテル2.0ですか?もう少し調べてから後で書き直しますが、Wikipedia玉突きモデルって、誰が書いたんでしょうね。

続き:改めて読んでも引っかかりまくり

先のURLは「初心者向け」とされていますが、それにしてもあちこち引っかかります。
まず、「要旨」で述べられているシュレーディンガーのネコのパラドックスの説明ですが、「外部から内部の状態を知ることが出来ない箱」という決定的に重要な要素が抜けています。コペンハーゲン解釈の重要な点に「観測した結果がすべて」という考え方があります。それゆえ、観測する前については「状態の重ね合わせ」という直感に反する考え方が出てくるのですが、箱なしで猫を語るということは、この点について理解が欠けているのではないかと思わせます。
また、

(3) 離散的な粒子には、中間的な個数はありえない。
(4) 量子力学で(波動関数によって)与えられる値は、存在確率であり、0と1の間の中間値である。
(5) 個数は中間的な値ではありえないのに、存在確率が中間的な値である。

のくだりでは、確率と個数の区別が付いていないというかなり痛烈なほころびが目に付きます。あまりよいたとえではないですが、「5年後生存率が50%」といったとき、患者さんの右半身だけが歩いている姿を思い浮かべる人なんていますか?コインの表が出る確率が50%であることは、コインは表か裏かのいずれしかないことと矛盾しますか?
このページの後半部分や、他の「詳細」なページはすべて「粒子説を採っているコペンハーゲン解釈はおかしい」という点に立脚しています。しかし、おかしいといっている根拠がこれですし、なによりコペンハーゲン解釈の重要な点の一つは「量子が粒子として振舞っているときには粒子として取り扱ってよいし、波として振舞っているときには波として取り扱ってよい」という相補性です。つまり本来粒子でも波でもないという立場です。粒子説だからおかしいといわれても、どうしろと?
また、さらに下のくだりでは

「重ね合わせ」の発想では、状態の数が増えるにつれて、量子の数がどんどん増えていくことになるが、ファインマンの発想では、そういうことはない。

とありますが、ここも状態と粒子をごっちゃにしています。
そもそも、私が知る限りファインマンの解釈とコペンハーゲン解釈は数学的に等価だと証明されていますし、実のところこの人もそう書いています。そしてエヴェレットの多重世界解釈も含めて、片手で足りないほどある量子実在に対する仮説の多くは、実験的事実に反することなく年月を耐え抜いてきています。それらの解釈がどうであれ、量子力学は100年にも及ぶ成功を収め、現代の電子工学全盛の世界を支えています。コペンハーゲン解釈がおかしいとか、エヴェレットの多重世界解釈が妄想だとか貶める必要はないのです。
コペンハーゲン解釈では、箱の中の猫の状態について生きているとも死んでいるとも断言しませんし、観測するまでは確率状態の重ね合わせだとまで言います。
「それで困らないだろう」
という立場がコペンハーゲン解釈の態度だったはず。そしてその解釈は現代の量子力学の成功と矛盾しないのです。矛盾しないのに貶める必要がどこにあるのでしょうか。
そして粒子の波モデル。私、このモデルを紹介した書籍を知らないのですが、単に忘れているだけでしょうか。エーテルを思わせるほど奇怪なモデルを忘れるとも思えないのですが。これ、この筆者の独自仮説ですよね。自説を一般に広く知られている説と同列に扱い、それをちゃんと説明しないというのはどうなんですか?

妄想なのか、新説なのか

たとえばカシミール効果の重要性を読んでも、「コペンハーゲン解釈では、ブラックボックス内外で得られる知識が違う」という点に関して理解が欠けているように思えます。
この人は根本的に誤った理解のうえに、書籍で読んだ知識と想像をこね合わせて妄想を組み立てているのでしょうか。私にはそう思えます。この人には、「拾ってきた知識と自分の想像をごっちゃにしてあたかも事実であるかのように語る」という、私と同類のにおいがします。
残念ながら物理素人*1である私にはこの人が主張している「シュレーディンガーの猫のパラドックスは解けた」ということが妄想なのか新説なのか、判断しきるだけの力がありません。何しろ量子実在の舞台は、多重世界解釈ですら「観測事実に反していない」と認められる恐るべき世界です。
多くの物理学に詳しい方の意見が読めるといいのですが。

シュレーディンガーの猫について

お勧めの本を列挙しておきます。

シュレーディンガーの猫」は量子力学を概観しながら、量子実在について切り込んでいくわかりやすい本です。
「量子と実在」は量子実在一本に絞った本ですが、生真面目で退屈かも。

*1:延々とこのエントリーに書いたことが間違いで、「ごめんなさい」と謝らなければならなくなる可能性もある。

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