早すぎた解説書?

超ひも理論量子力学相対性理論を結びつける」という話は何度も聞いていたものの、実際どうやって結びつけるのかわかりやすい説明は読んだことがありませんでした。量子理論や相対性理論は難解ではありますが、これらについては高度な数学の知識が無くとも概念を理解できるような初心者向けの本が出版されています。おそらくは超ひも理論でのそういう立場を狙ったのがこの本です。

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する

一言で言って、難しい本でした。第3部くらいまでは何とかついていけるのですが、第4部となるとだめです。そして第4部こそが「超ひも理論はどうやって未解決の問題にアプローチするのか」という最も興味深い点に迫る部分なのです。
量子力学相対性理論は我々が粒子、空間、時間などに持っているイメージを改めることを迫ります。それはそれで難しいことであるものの、決して無理難題と言うわけではありません。しかし、超ひも理論プランク長さあたりで展開する次元の巻き取りや、空間の断裂、長さの反転などといった話にいたっては、粒子、空間といったものの古典的なイメージが粉砕され、ほうきできれいに掃いて捨てられるように感じられます。
そういうわけで、私に関して言えばこの本は最も興味深い点がまったく理解できませんでした。量子力学相対性理論に関する冒頭の解説が非常にわかりやすかった分、超ひも理論からの自分の距離をひどく思い知らされる結果です。著者は超ひも理論の研究者で、自分の研究分野を知ってもらおうという熱意は感じますが、読者のほうが力及ばずでした。超ひも理論に関しては「人類は超ひも理論を理解する数学をもっていない。この理論は50年早く人類にもたらされた」といわれているのを読んだことがあります。数学だけではなく、解説も似たような状況なのかもしれません。相対性理論量子力学の解説書はすでに100年の歴史を持っています。研究者にとってだけでなく、我々一般人にとっても超ひも理論がすばらしい解説書を従えるようになるにはまだまだ時間が必要ということでしょうか。
一点だけ、ブラックホールエントロピーに関する解説は拾い物でした。この話題は日経サイエンス誌に何度か解説が出ていましたが、何を言っているのかさっぱりわからなかったのです。「量子力学は事象に関しては不確定だが、確率密度関数に関しては決定論的だ」というくだりは、これまでにない新鮮さを感じました*1。そしてブラックホールが物質を飲み込むことで、本来確率密度関数に対して決定論的な宇宙に新たな不確定性を持ち込むのではないかという話は、なかなかスリリングで面白かったです。

*1:ずっと前から知られていたことではありますが

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