限界に達するということ

ここ150年ほどの物理学史のうち、一番面白い部分の良い要約です。物理学に興味のある人ならば気楽に読める本ですが、全体を貫く問題意識はなかなかに深遠です。
大まかな構成としては、微視的な物理学としての量子力学素粒子論と、巨視的な物理学としての宇宙論、そしてその統合となっています。しかし、序章は「どうして数学と物理学の結果はこうも一致するのか」という、物理学より哲学に近い話です。
序章だけが浮いている理由は、この本の最後になってわかってきます。それぞれの章では物理学史でおきた数々の大きな方向転換、あるいは革命について語られます。新理論は、それ以前の物理学の限界の結果として現れてきています。そして新しい理論が現れてはそれに対する実証が行われていくわけですが、最近になって実証が困難になってきたことが本書では詳しく書かれています。
たとえば素粒子論に関しても、次第に解明のために必要なエネルギーが大きくなり、やがては人類の手に負えなくなるでしょう。宇宙論素粒子論と統一されつつある今、同じような困難に直面しています。
理論物理学者、宇宙論者たちは、それでも先に進もうと理論の拡張に励みますが、実験でも観測でも理論の実証が困難になってきた現在、彼らが理論の正誤チェックに使うのは審美眼です。
その理論は美しいか否か。
科学の手続きとして反証可能性が抜けない以上、実験も観測も出来ない理論を科学と呼べるかは疑わしいといわざるを得ません。従って、あとはもう数学に頼るしかありません。
物理学者が何を明らかにしたかではなく、どのような困難にぶつかっているかを紹介する良書です。お勧めですが、残念ながらやや古い内容になりつつあるので星4つにします。

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