セジウィック地球科学博物館

ケンブリッジに来ています。当初週末はロンドンの博物館でもと思っていたのですが、学問の都であることですし地元を見物することにしました。今回、仕事尽くめではないとは言え、それほど余裕があるわけでもないので羽目をはずさない程度にです。さて、さっと観光ガイドを見たところ、地球科学博物館があるとのこと。早速朝から地図を頼りに出かけました。
しかし見つかりません。地図で示されていたところには教会が。しかたがないので一通り歩いた後、街角地図発見。ありました。博物館。ホテルの前に
ぎゃふん。

気を取り直して門をくぐります。死ぬほどわかりにくい入り口を漸く探し当てて入場できました。こじんまりした博物館です。入り口右手には博物館最大の恐竜骨格レプリカが。こいつがティラノサウルスではなくイグアノドンであることは、恐竜発掘史を何冊も読んだ四十過ぎのガキにとって、当然のことと言えましょう。
左手隅にはひっそりとティラノサウルスの頭骨のレプリカが置いてあります。今後展示を発展させるとのことですが、目の高さに置いてあるだけに凄みがあります。一本一本の歯が自分の指よりずっと太いです。展示の説明を読むと、最後に「あなたの背後のケースの上にはディノニクスの骨格模型があります」って、肉食恐竜に対する扱いが冷淡すぎ(w。そして、振り返って仰ぎ見るだけに人間大の骨格が怖すぎます。例によって上に折りたたまれた足指についたナイフのような爪が目を引きます。小さな頭骨と歯、がっしりとした腕と、指の骨格より大振りな爪。ティラノサウルスがすべての暴力を頭骨に凝縮しているのと比べると、ディノニクスの姿には「飛びかかって殺す。そして食う」という機能が明確にあらわれています。
さて、展示は狭いスペースを活かした感じのいいものになっています。固有名詞はさすがに読むのがつらいものの、解説も比較的平易で楽しめます。アイルランド・エルク*1の巨大な骨格が展示されている突き当たり付近には、ニュージーランドの例の怪鳥*2の足の骨や人骨なんかも展示してあります。ピルトダウン人がなかったのが残念(w。
長いスペースをとって返し、入り口の恐竜を通り過ぎてさらに進むと、今度は進化や骨の解釈にスポットをあてた思い白い展示があります。始祖鳥の化石と、その近縁とされる、コンプソグナトスの復元模型が近くに配置されていたりして、なかなか憎いです。後者には「羽毛や羽があったかどうかはわかりませんが、模型にはそれを示唆するような塗装をしています」という但し書きがあって、またもやにやりとさせられます。
また、化石解釈に関しては、パリ万博の水晶宮に展示された恐竜の復元模型の写真と現在の想像図をならべて、解釈にどのような変化があったかわかる様になっています。
さらに奥にすすみ、イクチオサウルス類の上手な展示*3を見た後、奥に進むとクモの化石が。
「クモって化石になるんだ」
と驚いている場合ではありません。足を伸ばしたサイズが50cm(--。これヤシガニじゃねーの?と思ったら、やはり異議が唱えられているらしく、Sea Scorpionだという再解釈が行われているそうです。展示はクモとしておこなっているものの解説には、異議が唱えられていること、それでも、Sea Scorpionでは説明が付かないことがあるなどと言った点が丁寧に説明されていました。反対意見まできちんと紹介して、その上で自分たちの立場を明らかにするという非常に大事な事が一般にわかりやすく説明されている事に好感を持ちました。最後に「こういった再解釈が行われたことは、われわれの科学上の考えが移り変わることの好例です」と添えられているのには、うんうんと一人うなずいてしまいました。大事ですよ、絶対視しないことが科学なのだという認識は。
さて、ザリガニの化石など、どんどん地味になる展示物を見て行くと、最後にびっくりするような展示物があります。なんと、バージェス化石群の本物が置いてあります!バージェス頁岩から発見された化石群はグールドのワンダフル・ライフで取り上げられて有名になりました。日本ではNHKが番組中CGを使った再現を行ったので知っている人も多いはずです。
ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)はずいぶん前に読みましたが、後半の舞台がケンブリッジ大学であったことをすっかり忘れていました。その大学の研究所併設博物館に展示のなかろうわけがありません。実物化石の他、手作り感あふれるミニチュアや丁寧な解説が書いてありました。ハルキゲニアに関しては、ワンダフル・ライフ以降に中国で発見された化石をもとにして復元図が修正されているなど、見ごたえがあります。
じいちゃん、ばあちゃんの一群が若いスタッフに率いられて見学していましたが、中の一人がスタッフを圧倒する勢いですさまじい厚さの知識を披露していたのが印象的でした。
ケンブリッジにお越しの方は、リンゴの木ばかりではなく是非地球科学博物館もどうぞ。

*1:たしか、グールドが「名前が二重に間違っている」と書いていた生き物

*2:モアでしたっけ

*3:ロンドンの自然博物館には巨大な壁を埋め尽くすイクチオサウルスの化石が展示してあって見る者を圧倒する。イクチオサウルスの展示はイギリスのお家芸かも。

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