史上最大の肉食獣

出張でボストンに行く際、よくシカゴ空港を使います。そのターミナルのお土産屋を冷やかしていたのでシカゴの自然史博物館にSueと呼ばれるティラノサウルスの化石があるのは知っていました。
しかし、その化石がドロドロの訴訟沙汰に巻き込まれていたとは知りませんでした。

SUE スー 史上最大のティラノサウルス発掘

SUE スー 史上最大のティラノサウルス発掘

とても意外なことに、この本によると1980年代までティラノサウルスのことはほとんどわかっていなかったようです。化石の発掘数が極端に少なく、しかも完全な骨格が得られていなかったからです。しかし、90年代の化石ブームによって最も人気のあるこの恐竜の調査が集中的に行われ、今では多くの化石が得られています。
そのブームの発端となったのが、それまで発見されたティラノサウルスとしては最も完全に近い形で掘り出されたSueです。そして、Sueは知られている最大のティラノサウルスでもあります。
この本では、化石発掘の現場の様子からはじまって、発掘した化石の処理、性差に関する仮説、呼吸器系に関する仮説などが紹介されます。そして、著者とSueが巻き込まれた頭の痛くなるような訴訟や、その結果としての収監の様子が描かれます。
それらは2つの点で一方的です。

  • 生きているティラノサウルスはいないので仮説が正しいかはわからない。死人に口無し。
  • 被告の立場で書いているので、原告側の反論は掲載されていない。

いずれもある程度差っぴいて読む必要があります。しかし、ひとつだけ訴訟沙汰の中で被告に同情したのは、「強制捜査を州軍が手伝った」点です。酷い国ですわ。
なんにせよ、化石の発掘の様子や、呼吸器に関する大胆な仮説はスリリングの一言です。丁寧なイラストでいかにSueの骨格が完全だったかがよくわかりますし、写真からは化石のクリーニングがいかに大変な作業かもわかります。
少し値が張りますが、骨が苦手でなければお奨めできる本です。

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