「変な人」なのではない

先日銭衝さんと呑んでいるときに紹介したら、もう、読んでらっしゃった一冊。

なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか (ハヤカワ文庫NF)

なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか (ハヤカワ文庫NF)

「私はエイリアンに誘拐されて生体実験を施されたのです」
と、証言する人は、なぜそう信じ込んでいるのかを心理学者の立場から研究した結果を一冊にまとめたものです。著者は、「彼らは実際には誘拐されていない」という立場からそれぞれのケースをインタビューして事例を集め、心理学的な考察を与えています。
「この世には科学で説明の付かないこと云々」というありがちな反論をはじめとして、考えられる、あるいは実際に寄せられた反論に対して、丁寧に説明を書いており、この著者の「実際には誘拐されていない」という立場に揺らぎはありません。しかし、この本の目的は「彼らは本当は誘拐されていないのだ」と証明することにはありません。その証明(というより、説明)は本書の半分以上を占めているのですが、核心部分ではありません。
本書の最後では「多くの人がとても怖い経験をしたのに、その経験を幸せに思い、そのために人生が豊かになったと考えている」という矛盾を取り上げます。この部分が核心で、読みながらなるほどな、と唸ってしまいました。おそらく日々を謙虚にすごしている人の中には、この結論を許せない方もいらっしゃるでしょう。
対象が特殊ですが、それ以上に心理学者は知っていても素人であるわれわれは知らない事柄が、時々不気味な重みを伴った活字として現れてきます。たとえば記憶の頼りなさに関する話は、背筋が凍る思いでした。
暑気払いにどうぞ。

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