このブログでも絶賛した「フェルマーの最終定理 (新潮文庫)」の著者、サイモン・シンによるビッグバン宇宙論の解説です。と、書くと書籍の紹介としては負けです。著者のブランドに頼ってどうするんだって話。
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/01/28
- メディア: 文庫
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この本には、いくつか重要な主題があるようで、それらは繰り返し現れることになります。
- 科学とは、既知の事実を説明する仮説を立て、未知の現象を予言して検証を行う営みであること
- ひとたび知識が固まれば、それを延長することでより大きな未知を扱えること
- 新規な考え方は必ず既存の多数派から強い抵抗を受けること
神話体系から出発し、ギリシャ時代の地球の大きさの測定方法を説明することで、筆者は事実に基づいた考えを延長していき地球のような手に負えない大きさのものですら測量出来ることを説明します。そうして得た地球が球形であるという仮説が、他の事実を説明することや、これから進めて太陽までの距離と言ったものまで推測できることを説明します。
この部分で展開される考え方や手法は本書の後半、20世紀になって次々と天文学の難問に天文学者たちが挑戦する際にとった手法を理解する上で、非常に役立つ肩慣らしとなります。「フェルマーの最終定理」でも、谷山・志村予想をフェルマーの定理に結びつけるために決定的に重要になる背理法を説明するため、著者は数学史の早い段階での例を使っています。後に重要になる考えを問題が易しいうちに読者に説明するのが、この筆者の得意なやり方のようです。
この本にはいくつもの魅力的な話が紹介されますが、その中でもうれしかったのは天動説と地動説の衝突の下りです。筆者はコペルニクスの地動説が提出された段階では、天動説がそれを払いのけたのが当然だと説明します。天動説のほうがコペルニクスの地動説より星の運行を上手く予測したからです。この下りは私にとって特別に痛快でした。見回してみると「天動説は科学とは言えない」といったことを言う人もいるのですが、観測した結果によくあい、かつ将来の星の動きを予測する仮説として天動説は当時上手く機能していました。そこには目をつむって教会対科学の図式の中で天動説を批判する人には同意できないで居たので、この本の解説には溜飲を下げた思いです。
その後、地動説モデルはケプラーが軌道を楕円化したことによって精度がまし、天動説を押しのけることになります。地動説モデルは、将来の惑星の位置を天動説より精度良く説明するようになりました。このような未知の現象の説明はその後現れる科学論争でたびたび焦点となっています。このあと、観測技術の向上が多くの新しい謎を呼び、それが新しい理論を読んでいく過程を本書ではおっていきます。そのどれもが生き生きと描かれており、飽きることなく読み進めることが出来ました。とくにケフェウス型変光星によるアンドロメダ座大星雲までの距離の推定は、他の本ではあっさりと紹介されているにとどまっていますが、この本では、その心躍る過程が詳しく紹介されています。
神話部分が幾分退屈ですが、それを通り抜けるとあとはあっという間です。どのページをとっても面白く読み進めることが出来ました。
お奨め。