うすら寒さを感じる「素人が買うとは思えない」コメント

悪意のソフトウェアによる警視庁誤認逮捕事件は、真相が明らかになるにつれ混迷を深めていっています。メディアの論調は「恐ろしいソフトウェアが裏で動いていた」から警察への不信感へと移っており、その動き自身は犯人のものとされる犯行声明の思うつぼにはまっていると言えます。誤認逮捕の上に自白までさせられた市民はたまったものではなく、そして他人ごとではありません。
さて、今回の件についてはどういうわけか、普段にもまして現実感を喪失しかねないようなニュースがいろいろと舞い込んできています。そもそも例のソフトウェアを「ウィルス」と呼ぶことからして困惑せざるを得ません。感染性がないのにウィルス?
マスメディアが芸能ニュース以外は知識不足によるでたらめを垂れ流している*1ことは常識ですが、今回は聞いていて頭が痛くなることが多すぎます。かなりまともな記事を読みたい方は、Internet Watchをどうぞ。

PCの持ち主の気付かぬむちに遠隔操作され、なりすまし犯罪が実行されたとみられる事例が複数判明してきたことから、“遠隔操作ウイルス”“なりすましウイルス”などと呼ばれて連日報道されているが、JSNAによれば、従来より使われているバックドア型不正プログラムのたぐいであり、手口として目新しいわけではないという。しかし今回の一連の事件では、身に覚えのない罪を着せられ、逮捕・起訴までされた被害者が実際に現れていることから、個人における情報セキュリティ対策のあり方やネット犯罪捜査のやり方に課題を投げかける結果になったという。

さて、今朝方から一部でネタ扱いされているのはこちらです。

このウイルスを入手、解析した情報セキュリティー会社「ラック」(東京都千代田区)の西本逸郎専務理事によると、ウイルスは「VisualStudio2010」というソフト開発ツールを使って作成されていた。数万円から数十万円以上する専門的なソフトで、素人が購入することは考えにくいという。

ネタにされているということは、ある種のコミュニティからは程度の低いバカな発言と受け取られているわけです。何がおかしいのでしょうか。この中でポイントとなっているのは二つです。

  • VisualStudio 2010は高額なツールである
  • 素人は数万円もするツールは買わない

私もこれを読んだときにはめまいがしました。二つ、認識のずれがあるといっていいでしょう。

  • VisualStudio 2010には無料版がある。それではだめだとする根拠はあるのか。
  • 素人が数万円の開発ツールを買わないという決めつけ

プログラミングを趣味としている人は掃いて捨てるほどいます。現在多くのフリーなツールが提供されていますが、一方で有償のツールを購入する人もたくさんいます。理由は様々ですが、趣味でより先を目指すうえでお金を払う必要があるなら、数万円程度払う人はいるということです。そもそも、歴史的に15年くらい前までは、プログラミングツールと言えば買うのが常識でした。Turbo Pascal, Delphi, Visual Basicと、一世を風靡したツールがいくつもあります。
上の発言はそれらの歴史的、社会的背景を無視したものです。もし、上の記事の内容が事実であるのなら、ラックの西本専務理事はセキュリティ会社の理事であるにもかかわらず、プログラマーのコミュニティに関して著しく知識を欠く人物だということになります。この程度の認識で誰の何を守るというのでしょうか。
加えてその発言をそのまま垂れ流している記者にも疑問を感じざるを得ません。素人が数万円のツールを買うはずがないということを無批判に垂れ流したということは、この記者は

人は趣味や教養を深めるために金を払ったりしないものだ。

という恐るべき人生観、社会観で仕事をしていることになります。
なんだかいろいろと気がめいるニュースが流れた朝でした。

*1:芸能ニュースに関しては悪意によるでたらめを垂れ流している