週刊脇見運転 009 重量・バランスとの戦いになるWindows 8 ポータブル機

2011年の秋にDeveloper Previewが配布されて話題を呼んだWindows8の最大の特徴は、Metro Style UIです。名前がすったもんだしていたり、「こんなモノいらない」と罵倒されたり、デスクトップとの非連続性が批判されたりといったネガティブ要素はありますが、Microsoftが携帯からデスクトップPCまで同じUI哲学のソフトが動くことを保障しようとしている点はすばらしいことです。
Metro Styleは使ってみるとほんとにタブレットにぴったりの設計になっており、これでタブレットを使えるといいなぁと考えるのはごく自然です。そこで、「タブレットになるノートPC」を誰もが考えることになります。

ノートPCのポイントは重量とバランス

ノートPCが現れたときは「何とか運べる非力なPC」でしかありませんでした。が、いまや処理能力は一般用として十分以上であり、重さも1kg台でより取り見取りです。長い時間をかけて熟成されたこのカテゴリのポイントをひとつ挙げろといわれたら多くの人が口角泡を飛ばしながら、以下のようなことを挙げるでしょう。

  • 軽いこと
  • キーボードが打ちやすいこと
  • ポインティングデバイスが使いやすいこと
  • ディスプレイが見やすいこと
  • 十分な電池動作時間を持っていること

いくつかの要求は相反しますが、多くの革新が行われたことで、かなり満足度の行く製品群が現れています。たとえば、Thinkpad x220あたりは重量がやや重いですが、それ以外の項目について多くの人が満足するパッケージになっています。
Windows8はそんな風に、ポータブルPCが成熟しつつあるタイミングに現れました。そしてWindows8搭載ラップトップPCについて結構な数の人が、上の条件に加えて
タブレットとして使えるといいなぁ」
と考えたことは、不思議ではありません。
タブレット・デバイスはデスクトップPCほど神経質な操作を要求しませんので、くつろぎながら使うのにぴったりです。仕事で使ったPCを寝室に持ち込んで、WEBサーフィンをしながら根っころがることができたら楽しいに決まっています。
当然、そこには「十分軽いこと」という条件がつきます。そして、Windows8は、もうひとつの条件をノートPCに突きつけているようです。

  • 重量バランスが取れていること

9月2日から始まったIFAでは、いくつものWindows8対応デバイスが発表されています。これらを見ながら、設計者がどのように重量およびそのバランスと戦ったているか見てみましょう

完全コンバーチブル

この型は従来からよく知られているもので、Lenovo x230tの二軸ヒンジが有名です。Lenovo x230tは、x220の亜種で、コンバーチブル・ラップトップとなっています。ポイントは液晶パネルを支えているヒンジが、通常の開閉軸のほかに、ひねり軸も持っていることです。

Lenovo x230tの最大の長所は、そのコンバーチブルマシンとしての完全性にあります。ユーザーはLCDをキーボードと同じ面に向けてノートPCとして使うことができます。LCDを閉じると、ノートPCと同じくキーボードのカバーになります。また、LCDをひねって反対側を向けて閉じれば、キーボードを隠したタブレットになります。また、重量バランスもノートPCと同じですので、ひざの上やテーブルの上で安心して使えます。
すでにWindows7搭載で販売されているFujitsu Lifebook q920tもこの方式です。
x230tの欠点は、その質量でしょう。12インチで2kg近い質量というのは、いくらビジネスモデルでも重過ぎます。ノートPCとして考えれば我慢でできないこともありませんが、ねっころがってベッドで見るとか、電車の中で片手で使うのは無理があります。
Lenovoと違うアプローチで完全コンバーチブルを実現しているのがDell XPS Duoです。このモデルはLCDパネルの枠の中で、LCDだけが水平軸でくるくる回ります。つまり、本体とLCD枠をつなげる水平ヒンジのほかに、液晶を枠の中で支える水平軸がもうひとつあります。発想の逆転ですね。枠の構造上、それなりの強度が必要と思われますが、どのくらいの重さか注目しましょう。

セミ・コンバーチブル

この型は最近になって目に付き始めたタイプです。ノート <-> タブレット両用のかわりに、ノートを閉じることを犠牲にすることで重量増を押さえ込もうとしたものです。スライド式Quertyキーボードを持ったスマートフォンの流れといっていいかもしれません。
Sony VAIO Duo 11は、LCDの下にキーボードが隠してあるタブレットです。この機種は、LCDを上にスライドさせると後部の機構によりLCDが立ち上がり、斜めに固定されます。つまり、折りたたみLCDスタンド内蔵と考えていいでしょう。構造上、主要機構はキーボード下におかれると思われるため、重量バランスはよさそうです。欠点としては、どうやらLCDの角度を調整できそうにないことが挙げられるでしょうか。液晶が光沢なので、映り込みには難儀しそうです。一方、後述の東芝にある電気回路の弱さは心配しなくて良さそうです。

Toshiba Satellite U920も、スライド式でLCDの下にキーボードが隠してあります。タブレット形態からLCDをスライドさせると、VAIO DUOと異なり、ぺっちゃんこのままスライドしていきます。そして、一杯にスライドしたあと、LCDが折れ曲がって立ち上がる構造です。写真では確認できませんが、液晶の折り曲げ角度を調整できるかもしれません(できないかもしれない)。できるなら、これはSONY VIAO DUOに対する優位点です。一方、電気回路にはやや不安が残ります。VAIO DUOの方式だと、配線をスタンド内部に通すことができます。この場合配線は折れ曲がりますが、大きく移動することはありません。しかし、東芝のSatellite方式ではフレキシ基板がスライドによって大きく移動することになります。強度は大丈夫でしょうか。

キーボード着脱型

これはタブレット形態に軸足を置いた製品です。液晶側にほぼ全機能を搭載することで完全なタブレットとし、必要に応じてキーボードを接続するものです。
Microsoft Surface がこの方式の雄でしょう。軽量のキーボードをマグネット着脱式とし、キーボードカバーと合わせて使う事で持ち運びにも便利になっています。一方、この方式には大きな欠点があります。キーボード・ドッグ型はほぼ全機能がLCD側に集中しているため、重量もそちらに集中します。結果的に、キーボードをよほど重くしない限り、ノートPC的な置き方をすると頭でっかちでひっくり返ってしまいます。MSはSurfaceにスタンドを付けることでこれを解決しましたが、同時に、膝の上で非常に使いにくそうな形になりました。あと、あのスタンドって机に傷を付けませんかね。

HP Envy X2は、キーボードにもバッテリーを内蔵することで重量バランスの問題に挑戦しています。この機種はスタンド無しで、任意の角度にLCDを調整できるようです。ただ一体にすると重いので、結果的にキーボードはオフィスに置いて外出になりそうです。だったらどうして電池が!ということにもなりかねません。

Fujitsu Stylistic Q720もこれと同じ形式です。Asus, Samsungも同様な形式を発表しており、ひとつの人気ジャンルになっているようです。

不完全変形型

x230tのような完全コンバーチブルを諦めつつ、ノートPCとしての形にこだわったのがこの形式です。
Lenovo Yogaは、液晶を360度開くことができ、開ききるとタブレットになります。理屈はわかるし昔からある発想ですが、手に持ったときにキーが指に当たるって、工業製品としてどうなんでしょうか。あと、台に置いたときにキーが汚れませんか。重量バランスには問題はありませんし、重量も完全コンバーチブル型より軽くなるはずです。

ノートPC型

おそらく発表された中で一番奇想天外な設計はAsusのTAICHIです。
このノートPCは、通常の液晶の背面にもう一つ液晶を持っています。つまり、デュアル液晶です。コストどうなってるんだよ!と思いますが、通常のノートPCの機構設計をほぼそのまま利用できる機構的にシンプルな方式です。相当頭でっかちになるはずなので、重量バランスが悪いか、本体がずっしり重いかのいずれかでしょう。

よりどりみどり

10月26日のWindows 8発売は、久しぶりにPCに多くのバリエーションを吹き込んでくれそうです。ちょっと前までは「Surface欲しい!」と思っていた私ですが、今はHP Envy X2やVAIO DUO 11, DELL XPS DUO 12もいいなぁと揺れています。本命はIntel次期CPUコア"Haswell"を使った超長時間駆動PCと思いつつも、わくわくしている今日この頃です。

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