重力波が直接観測されたというニュースが飛び込んできました。
今朝、ワシントンDCの全米記者クラブで、Caltech - MIT - LIGO の共同記者会見が開かれ、ブラックホールの連星が合体するときに放出された重力波の直接観測に成功したとの発表がありました。
すでにあちこちで解説されているとおり、重力波はアインシュタインの一般相対性理論から導き出される現象で、100年前に予想されていました。一般相対性理論は多くの予想をしており、それらが悉く観測で裏付けされています。中には水星の軌道といったそれほどなじみのない世界での観測により正しさが証明された予言もあれば、GPSのように生活に密着したところで正しさが証明された予言もあります。
相対性理論が生み出した予言のうち、とりわけ直接観測*1が難しいといわれてきた重力波が観測された*2ことで、どうやらこれまで観測できなかった宇宙の領域を観測する方法が拓けそうです。
さて、今回観測されたのは「連星系をなすブラックホールの衝突」でした。ブラックホールは巨大な重力を持っているため、高速で公転すると重力波を放ちます。重力波はエネルギーを持ち出し、結果的にブラックホールの公転速度が落ちます。公転速度が落ちると公転軌道の半径は小さくなり、結果的に公転周期が短くなります。
こうして自らの公転によってエネルギーを失ったブラックホール連星系は最終的に距離が近くなりすぎて合体してしまいます。
リンク先ページに観測された重力波の波形が示されています。これを見るといくつか特徴的な事がわかります。
- 振幅は数十ミリ秒の間に急速に大きくなり、一気に小さくなっている。
- 小さくなったところで(たぶん)ブラックホールが合体している。
- 波の周期はどんどん短くなっている。
- 波が極大になったときの周期はだいたい5ミリ秒位
- 観測にかかったのは200ミリ秒位に見える
この振動がそのまま公転を表しているのなら、公転周期は最終的に5ミリ秒になったと思われます*3。二つのブラックホールの質量はそれぞれ太陽質量の36倍、29倍だそうでそのような大質量の物体が周期5ミリ秒で公転するとは想像を絶する話です。
さて、想像を絶するだけでは面白くないので、ちょっと計算してみました。太陽質量の36倍、29倍のブラックホール連星系はどのように運動するのでしょうか。
ネットで探してきた天体の公転の式を元にEXCELで計算しました。連星系の場合、星が系全体の重心を挟んで回転します。この表では、太陽質量の36倍、29倍のブラックホールが系の重心の周りを公転しているとして、軌道の長半径の和と公転周期の関係を調べました。両者の軌道が円であると考えて、互いの距離と公転周期の関係と考えてもいいでしょう。
軌道長半径の和 | 公転周期 | コメント |
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1天文単位 | 45日 | 太陽と地球の距離 |
38万km | 500秒 | 地球と月の距離 |
6000km | 1秒 | 地球の半径 |
300km | 11ミリ秒 | 東京から名古屋 |
さて、太陽質量の36倍のおよび29倍のブラックホールは、それぞれシュヴァルツシルト半径*4が110km、90km程度になります。
つまり今回の観測では、「東京-名古屋程度に離れた直径100kmのブラックホールが、公転周期10ミリ秒程度で運動している」ということのようです*5。
観測されたブラックホールの衝突では、重力波の放出によって太陽質量数個分のエネルギーが持ち出されているようです。まったく目も眩むような話です。
ところでこの規模のブラックホールはこれまで観測に引っかからなかったそうで、そういう意味で今回の観測は新しい観測対象を天文学に付け加えています。トップ争いに敗れたとはいえ、世界でいくつかの重力波観測施設が建設されています。これらが本格的に稼働すれば、これまで想像もしなかったようなことが次々と明らかになるのでしょうか。
追記
ブラックホール近傍の力学は相対論を使うべきなのですが、このエントリの計算はニュートン力学を使ってまいす。あくまでも大雑把な目安と考えてください。