38 廃市・飛ぶ男

十年ちょっと前に「草の花」と一緒に買った本です。ようやく読みました。純文学ですね。

廃市/飛ぶ男 (新潮文庫 草 115-3)

廃市/飛ぶ男 (新潮文庫 草 115-3)

正直、かなり退屈でした。「だから何?」と言いたくなる短編が数本。幾分風向きが変わってくるのは「風花」からでしょうか。寂しさともつらさとも悲しさとも違う、一種儚げなとりとめもない心象風景を切り取った小説です。主人公の人生の転機というか暗転時期であるにもかかわらず、どこか一歩引いたような静かな描写が印象的な作品です。
静かさというのは、どうやら福永武彦の短編のキーワードでしょうか。世界が崩壊するシーンですら激しいカタルシスとは無縁の作品群の中で所々光るのは繊細で詩的な描写です。作品の流れが静かなだけに描写の繊細さも際立ちます。タイトル作の「廃市」と「退屈な少年」が印象に残っています。
幾分の物足りなさを感じるのは、たぶん私がプロット重視に偏重しているからでしょう。

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