61 以下、無用のことながら

司馬遼太郎好きなら、一目みてぷっと吹き出すようなタイトル。

以下、無用のことながら (文春文庫)

以下、無用のことながら (文春文庫)

司馬遼太郎という人は「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」「坂の上の雲」といった長編新聞小説で知られている一方で、本人は自分のことを「散文書き」などと幾分自嘲的に*1言っています。この本は彼があちこちに「書き散らした」散文を集めたものです。ある作品は請われて出版物の前書きや後書きとしてかかれ、ある作品は講演を断った詫びにかかれ、ある作品は追悼文として書かれと、多種多様な作品が集められています。司馬遼太郎と言う人は原稿を送ってしまうと手元に本物どころか複製すら残さなかったらしく、この本は彼があちこちに書き散らしたものをコレクションでもするように集めたもののようです。
切り口が多様である分、退屈なものも混じっていますが、多くの作品が司馬遼太郎らしい人間性への暖かい眼差しに彩られています。
好きな作品はたくさんありますが、特に印象に残ったのは池波正太郎評です。「彼は失われる昔を追いかけて旅をするのではなく、70年ごろから自分の小説の中に失われた昔を構築し始めた」という指摘を読んで、池波作品を読んでみたくなりました。

*1:ユーモアを含んで

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