15 月と6ペンス

面白い!

月と六ペンス (角川文庫)

月と六ペンス (角川文庫)

読み始めて思ったのが:
「しくじったよ、作者イギリス人だよ」
くどい。くどいです。作者は序盤で信じられないほどくどくどと調度品やら人の欠点やらを描写します。どうしよう、最後まで読めるか?というのが正直な感想でした。
新米作家である「私」は、偶然からそれほど親しくないご婦人に頼みごとをされます。家族を捨ててパリへと出奔した株屋である夫、チャールス・ストリックランドを連れ帰ってくれと。ご婦人よりさらに親しくないチャールス・ストリックランドをたずねて仕方なくパリを訪れた主人公は、そこで変わり果てた元英国中流階級紳士の、野獣のように生き生きとした姿を見つけます。
読み終わってはっきりと分かることですが、出だしのうんざりするような話運びはすべて計算ずくです。パリでの対面でのシーンでは、ストリックランドの言葉少ない断定的な話しぶりがぎらぎらとした輝きすら感じさせます。そしてその輝きを強めるのに、序盤のイギリス中・上流階級の持って回った長ったらしい会話が大きな役割を演じています。読者はストリックランドにとってイギリスでの生活はまったく意味がなかったということに納得せざるを得ません。
金銭的にも社会的にも恵まれた生活を捨て、自分の内なる声に突き動かされるまま、自分の求めるものが何かを探してひたすら落ちていくストリックランド。自分の衝動以外の何にも興味を持たなかった男の歩いた後をたどる「私」。ロンドン、パリ、タヒチとストリックランドの足跡をたどっていくにつれ、話は陰鬱とした風景から風通しの良い自由、そして極彩色の辺境へと移り変わっていきます。
古い小説ですが、長く読まれ続けていることが納得できるすばらしい作品でした。電車の中で鳥肌が立ったのは久しぶりです。

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