きっと我々は試されている。忍耐を。

脇見運転を日ごろごらんいただいている方であれば、私がイギリス人に対して、特にその味覚とユーモアのセンスに対して少々強い偏見を持っていることをご存知かと思います。ことにそのユーモアに関してはクラーク翁の傑作(ブラック)短編集白鹿亭綺譚 (ハヤカワ文庫 SF 404)あたりから偏見を持つようになり、少しずつ大事に育ててきたものです。そういうわけで、読み始めてこの本の著者がイギリス出身と気づいたときには内心こう思いました。
「オワタ\(^o^)/」

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

数学をつくった人びと〈1〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

遠くエジプト・ギリシャ時代に源を発し、16,7世紀から爆発的な発展を遂げた数学。その発展に大きな貢献をなした偉大な、真に偉大な人々を綴ったのがこの本です。第一巻ではギリシャ時代で肩慣らしをした後、デカルトフェルマーパスカルに始まり、ニュートンライプニッツオイラーラグランジュラプラス等などそうそうたる顔ぶれです。
実に50年にもわたって世界中で読まれた名著!である上にこの顔ぶれですから嫌がおうにも期待がたかまるのですが…結構読む人を選びそうです。
読む人を選ぶハードルのひとつが、その持って回った表現。くどい。そして皮肉っぽい。あー、イギリス人の書いた文章だ〜と落胆。
さらに輪をかけるのが、今流行の言葉で言うと「上から目線」。数学以外はクソ!ガウス天文学なんかに寄り道したのが返す返す残念!どうして数学以外のことに時間を使うんだバカバカシイ!と、「天上天下唯数学独尊」「豚は死ね数学者は生きろ」がいたるところに炸裂します。ガウスが軌道計算に対して行った貢献はそれはそれは大きなもので、天文学の本でもことさら重要事として、そして感謝の念をこめて描かれることが多いのです。が、
「反対側からはこんな見かたをしてたんだぁ」
と興ざめしてしてしまいました。天文学者ギザカワイソス。
そんなわけで、人に勧めるのは少し躊躇してしまいます。正直言って著者に対する私の評価は低いので。が、それでもここに紹介するのは、「文庫化に際しての訳者挨拶」にあった、以下の一文にうなずくところがあるからです。

今日の日本の硬直化した学校数学を学んだ人には、数学というと答えが決まった退屈なものという印象が強いと思うが、それは大間違い。数学とは大なり小なり、精神の劇的なドラマだということを、本書ほど鮮やかに描き出したものは少ないと思う。

精神の劇的なドラマ。この本に描かれているのは、その言葉どおりの激しい人生ばかりです。

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