Googleが携帯プラットホーム

携帯電話業界で働いているか、よほどの携帯電話マニアでなければ何のことやらさっぱりなニュースです。もともと、"Google Phone"だとか、あるいは"gPhone"などといわれた携帯電話が発表されるとささやかれていましたが、ふたを開けてみると、携帯電話のプラットホームの話でした。
プラットホームって何?
プラットホームも、よほどのPCマニアか業界の人じゃないとピンとこないですね。駅のアレかよ、と思います。が、この場合はそうじゃなくて、何かを乗っけておく台、あるいは発射台のようなものです。ようするに、Googleが今回発表したのは携帯電話を開発するための共通基盤をみんなで作りましょうという構想です。すでにGoogleが中心になって開発はほぼ終了しており*1、もう少しするとソフトウェア開発キットが出てきます。Googleは、これを使って携帯電話を作ろうと世界中のメーカーに呼びかけています。
なぜGoogleが、というとこれは分かりやすいですね。GoogleはデスクトップPC向けのWebサービスで大成功したので、余勢を駆って携帯電話ユーザー向けのWebサービスに乗り込もうという魂胆です。そのためにはもっとWebサービスを縦横無尽に使い倒せる電話がどんどん出て欲しいのですが、現実世界を見渡すと、Googleが満足するような携帯電話が見当たらなかったということです。Google自身はWebを使ってもらえばいいので、プラットホームの開発費はGoogleの持ち出しにしたわけです。
「でもWebサーフィンができる携帯電話ってあるよね?」と、思うところですが、いろいろ困ったことがあります。まず、日本の携帯電話の場合、常に天文学的なパケット代金を恐れながらWebページを閲覧することになります。パケット代金が高いことにはいろいろな技術的理由や商売上の思惑がありますが、キャリアとしては高い金を払って欲しいわけです。ここでNokiaの電話なんかだと無線LANも付いていますのでLANが使えればそっちを使えば安く済みます*2。が、DoCoMoSoftbankAUといったキャリアが商品企画を牛耳っている日本では、ユーザーが携帯電話の回線を使わずに済むような機能には積極的ではありません。こういう古い体質を揺さぶって「目を覚ませよ!」と叫んだのが今回のgoogle
さらに、日本の外ではNokiaの端末のように無線LAN機能を持ったものを見つけることができますが、これらはあくまで高機能高価格製品です。そういった価格帯に無線LAN機能付きの携帯がとどまっている限り、googleが望むような、Webべったりのユーザーは増えません。そこで、やはり市場を揺さぶって「もっと積極的にやろうよ」と叫ぶ意味もあったでしょう。むしろそっちが主か。
携帯電話の機能は、通信通話機能とアプリケーションに2分できます。そのうち、通信機能はGSMとWCDMAさえカバーしておけば世界の大半で使えます。たとえば、日本でGSMは使えませんが、WCDMAはDoCoMoSoftbankで使えます。アメリカやヨーロッパ、中国ではGSMが使えます。ですから、この部分はある意味もうそれほど開発に手間がかかりませんし、この2つさえ対応すれば世界が市場です。
一方でアプリケーションのほうは、まだまだやることがあります。日本の携帯電話は音楽とテレビにどっぷりと使っていますが、世界的に言えば中機能携帯はPCとの連携と音楽、高機能携帯となるとWEB閲覧やGPSに向かっています。これらが最終的にどこに向かうかはまだ、流動的です。
Googleが今回ぶち上げたプラットホーム戦略は、この流動的な状況に対応できるような開放的なソフトウェア開発基盤としてLinuxを選ぼうというものです。そして、Linuxカーネルから余計な機能をそぎ落とし、やっかいなGPL関連のあれこれも気にせず使えるようにするというものです。
当然、これと正面からぶつかる陣営は敵意をむき出しにするわけで、それはもちろんSymbianOSを要する陣営です。ここには1社で世界の携帯電話のうち30%、3億台を生産するNokiaが出資しています。ディジタル情報機器のブランドは市場占有率が大きく物を言いますから、指をくわえてGoogleを眺めているはずがありません。派手な機能の追加といった対抗措置をとるでしょう。それもGoogleから見れば市場の活性化につながるわけで、歓迎すべきことです。
Linuxに関しては、少し古い本によると開発者がドライバのソース非公開に対して批判的です。しかし、携帯電話の通話機能のような極度に法的な縛りの強い部分は、ドライバのオープンソース化と相性が悪いです。こういったことはすでにMotorolaの携帯などが経験しているはずですが、Googleの参入によって市場占有率が上がることがオープンソース陣営を刺激することも考えられます。
ま、日本に限って言えば、Nokiaの携帯を出すにもいちいち骨抜きにして自由度を落として売っているキャリア連中ですから、すぐにGoogle携帯を出すなんてことはないでしょうし、実際、すぐには出さないとはっきり言っています。しかしながら、Google携帯が成功するようなことになれば携帯電話の内外差は一層大きくなります。鎖国状態がGoogleによってより鮮明になるかもしれません。はじめから多国語対応のプラットホームになるでしょうから、輸入品の携帯が日本語完全対応という日も来るでしょう。ビジネスユーザーが安くて高機能なGoogle携帯にどっと流れ込むなんて日は来るでしょうか。
変化があるのはいいことです。結構期待して見ています。

*1:というか、だいぶ前に会社ごと買い取った

*2:Skypeまで使えるとなると、携帯電話で電話をかけない人が出てくる

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