よく分からない戦いだった

ドーキンスとグールドは、どちらも進化論の分野でよく一般に知られた名前です。ドーキンス利己的な遺伝子 <増補新装版>で、グールドはワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)で、それぞれ科学解説書好きの間では知られています。
そしてこの二人、仲が悪いことでも有名です。いや、仲が悪いと言うのは言い過ぎかもしれませんが、どんな本を読んでも「訳者後書き」にはこの二人のきつい論争の事が触れられています。しかし、素人目からすると、いまいち分からんのです。なんでそんなにいがみ合っているんでしょう。互いにダーウィン主義を掲げ、それぞれ興味深い内容の本を出している二人ですが、それぞれの本の主張を読み比べても、やはり険悪になるような材料がみつからないのです。
それを解いたのがこの本。

ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)

ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)

喧嘩ってのは直近だけ見てもどうしていがみ合っているか分からない物です。そもそもの始まりからたどっていかないと、それぞれがなぜそんなことを言っているのかまったく理解できません。そういわうけで、この本では進化論に関するそれぞれのトピックに関して、両者がどのような考えを持っているのか比較してくれます。
内容は濃く、時に微に入りすぎてめまいを感じますが、それでも一つ一つの話題は興味深く、ドーキンスやグールドの本を読んだ人ならば誰でも引き込まれるであろう内容です。
12章で著者自身が述べていますが、学術主張内容についてだけ考えても両者がなぜこれほどいがみ合ったのかは、やはり合点がいきません。この点について著者はいがみ合いの本当の背景は科学観、裏返せば宗教観であると述べています。未読ですがドーキンス神は妄想である―宗教との決別を著したように宗教を冷たく退けます。著者はドーキンスにとって、科学こそが、そして科学だけが人間の無知の暗闇を照らす灯りであろうと考えます。一方、グールドは宗教が科学の立場を侵さなければ、人間の心の救いとして役立つという立場です。つまり、宗教自身に科学者として関わる必要はないというのです。
著者はこの点についてグールドを厳しく批判します。宗教がこれまで展開してきた世界観が科学的な見地と折り合わないことを持って、大きな瑕であるというのです。
私はこの点で著者には同意できません。何度か書いた気がしますが私自身は宗教が心に安らぎを与えるのなら、そして宗教が自身を科学であると(今後)言わないのなら、私が宗教についてとやかく言う必要はありませんし、有用だろうと考えます。そもそも人の心の救いに対して無謬を求め、そうでなければ焚書せよといわんばかりの著者のこの主張は、傍目には狂信的で無知な(しかし自分を全知な神の代理人と信じる)宗教家と何ら変わりなく見えます。
「宗教観が背景にあるならいがみ合うのも不思議はないな」と妙な読後感に包まれる科学論争解説書でした。
おすすめ。