「諸君らが愛してくれたラジオボタンは死んだ!何故か!」「機械だからさ」

もうずいぶん前から「ラジオボタンは比喩の体をなしていない」と繰り返しています。

コンピューターのユーザー・インターフェースである『ラジオボタン』は、複数の選択肢の中から一つだけを選ぶための機能です。いったん選んだ後、他の要素を選ぶと前に選んだ要素は自動的にクリアされます。

 コンピュータのユーザー・インターフェースである『ラジオボタン』が世間に広く知られたのは、おそらくApple Macintoshが発売された1984年以降です。それまでコンピュータと言えばキーボードで命令を叩くものでしたが、AppleXeroxの研究所で研究されていた「絵による比喩を使ったユーザーインターフェース」つまりGUIを採用しました*1

なじみにくいコマンドではなくなじみのある実世界のモノの比喩を使うことで、万人に使いやすいコンピュータを目指したわけです。

その際、「複数ある選択肢のうち、一つだけ選ぶ機能」が比喩として採用したのがカーラジオでした。そもそも、コンピュータに詳しくない人にとって、身の回りにあるエレクトロニクスと言えばテレビ、ラジオ、電話、ラジカセ、電卓、時計と言う時代です*2

テレビやラジカセにも「複数ある選択肢のうち、一つだけ選ぶ機能」がインターフェースとして備わっていたのですが、万人への通じやすさと言う意味でカーラジオのボタンは抜群に優れていました。運転中に同調ダイヤルを操作して注意力が散漫にならないよう作られた機械式のプリセット選局機能は十分長い間、自動車社会の隅々にまでいきわたっていたからです*3

ところが、その後大変革が起きます。機械式の押しボタン選局機能はすたれ、代わりに軽く押すだけで選局できる電子選局が主流になりました。さらにカーラジオはカーステレオの機能の一つになり、スイッチのデザインは主張の弱いものになっていきます。さらに時代が下ると、カーラジオはカーナビを中心とするシステムの機能の一つにまで地位が下がり、選局もタッチパネルなってしまっていました。

ラジオボタンって、なんの比喩でしたっけ。

比喩としての『ラジオボタン』という言葉は、すでに比喩の力を持っていません。以前は「ラジオボタン」と言えば一発でカーラジオが頭に浮かび、その機能が想像出来ました。それがいまでは真っ先に頭に浮かぶのは複雑なコンピュータの機能のひとつです。

さて、昨年の話になりますが、古い時計をオークションで落札しました。コンポーネント・ステレオ華やかなりしころのオーディオ・タイマーです。

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落札したオーディオタイマー

オーディオ装置の一つとしてデザインされただけあってしゃれた作りになっており、大変気に入っています。

この時計、実は一か所不具合があり、先日修理のために中を開けてみました。その際しげしげと見入ったのが、左側に三つ並んだ押しボタンスイッチです。この三つはまさにラジオボタンと同じ動きをします。一つを押し込むと、それまで押し込んでいたボタンが自動的に解除されます。

面白い仕掛けだよなぁ、とおもいつつ不覚にもこういったスイッチを何と呼ぶのか知らないことに気が付きました。

と言うことで、あれやこれや調べた、というのがこのエントリの趣旨なわけですが、結論から言うと、はっきりした日本語の名前は見つかりませんでした。どうやら標準品としては大量生産されておらず、海外のメーカーが細々と生産しているだけのようです。

英語では

  • Gang Switch
  • Switch Bank

と呼ばれています。なるほど。それらしい名前です。

これでまた一つ賢くなりました。と言いたいところですが、最近はすぐに忘れてしまうのでブログに書いた次第です。

お粗末。

*1:うるさいことを言うとApple の製品で最初にGUIを採用したのはMacintoshではないけど、この稿はそういう厳密さは求めていない

*2:結構ありましたね…

*3:あの機構が好きで、壊れたラジオを分解してしげしげと眺めていました

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