マグロって止まったら死ぬのかな

若い研究者の力強い意思表明です。

研究者は研究者であるかぎり成長し続け、研究し続けなければならない。

がんばってください。何であれ、一生勉強ですが、それを認識するひとは意外に少ないものです。応援しています。
さて、話は変わりますが、マグロって止まったら死ぬのでしょうか。死なない気がします。昔は止まったら死ぬ魚の代表はサメでした。
魚の筋肉は同じ脊椎動物であるわれわれと同じく、三十数度で最大の効率をたたき出します。酵素のせいでしょうか。ところが、魚は水から酸素を取り出すため、血液を鰓に通さなければなりません。魚は、運動量を生み出すためにわれわれと同じく大量の酸素を必要とします。ところが、それはとりもなおさず、鰓から莫大な熱を失うことを意味します。陸上で空気からたいした熱の損失なしに酸素を取り入れる我々にはないハードルです。
マグロのような高速回遊魚は、これを解決するための特殊な器官を持っています。この器官は一端から静脈が、他端から動脈がはいってきて内部で絡み合うように密接しています。動脈からは、鰓で酸素を取り込み、冷たくなった血液が入ってきます。静脈からは筋肉で酸素を失い、暖かくなった血液が入ってきます。そして、この天然の対向式熱交換器のなかで動脈の血液は静脈から熱を与えられて出てきます。その結果、マグロは自身の筋肉に常に温まった酸素に富む血液を送り込むことができます。いったいどんな循環器の疾病がこんな器官を生み出したのかと、驚かずにはいられません。
さて、この仕組みのおかげで高速遊泳中もマグロは体を冷やすことなく呼吸を続けることができます。そして、どの魚も持ち得なかったような強力な筋肉を持つにいたっています。一方で、高速遊泳中だからこそ、体の発熱と鰓や体表から逃げる熱がバランスしています。そこで、一本釣りでもされたらどうなるでしょうか。鰓から熱を奪っていた水流が止まるのに、甲板ではあの巨体で暴れますから筋肉は発熱を続けています。しかも元の体温が高いのです。その結果、釣り上げられたマグロの肉はどんどん自分の体温で変質しています。これを避けるためにマグロ漁では釣った魚を一気に冷凍してしまいます。
同じことは水中でも起きるそうで、延縄にかかったあと暴れると肉が変質します*1。そこで、暴れないように伸びる縄を使うことで身焼けを防ぐとのこと。ということで、どうやらマグロはクールダウンすれば死なずに止まれるようです。みなさんも健康のためにウォームアップとクールダウンをちゃんと行いましょう。
対向式熱交換器の話は、昔日経サイエンス誌で読みました。
サメは鰓ぶたを持っていないので、停止中に鰓を水流を起こせず、寝たら死ぬと昔から言われていました。その後、寝ているサメが発見されてこの話が覆されたと聞きますが、特殊な例外が発見されたのか、すべてのサメが停止できるとされたのかは、私は知りません。

*1:身焼けと呼ぶらしい

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