古典的SFとしてもっと認められるべき

山椒魚戦争 (岩波文庫)

山椒魚戦争 (岩波文庫)

これも飛行機の中で一気読み。
タイムスパンは大体10年から15年くらい。おそらくは第一次世界大戦の前くらいから話がはじまり、第一次大戦後ドイツが力をつけていくあたりの世界が描かれています。
南海の孤島でひっそりと絶滅を逃れて暮らしていた海生山椒魚。背の低い人間くらいのその動物は、直立してあることができ、教えれば取引すら可能な知性を持っていました。それを利用して一財産当てようとする人たち。事業は成功し、拡大し、あまりのスピードに市場は値崩れを起こし、急激な山椒魚産業の転換をもたらします。
幾何級数的に増える山椒魚を使って各国で大規模かつ激烈な海岸線開発が行われます。それとともに、山椒魚たちの知的レベルはぐんぐん上昇し…
無制限に拡大する人類社会への警鐘、と書くと急につまらなく感じるから不思議です。この本の魅力はそんな言葉では言い尽くせません。はじめこそ、たどたどしい人物描写に不安になりますが、中盤からの社会描写は圧巻で、ぐいぐいと引き込まれます。分厚い本ですが一気に読み終えました。また、意外なことに現代でも通じるSFになっています。知られている科学知識*1の体系に、小さな仮定*2を置き、それが起こす渦を描写しているという点で、堂々たるハードSFといえる作品です。
作者のチャペックは、ロボットという言葉をはじめて使った有名な戯曲「R.U.R.」を書いています。
お勧め。

*1:人類は大型戦艦や航空機を作れるようになったが、まだ核分裂もDNAも知らない

*2:知能を持った山椒魚

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