おもてなし

もう、10年以上前の話です。単車で東北旅行に出た際、当時熱を上げていた「原発詣」の一環として、女川原子力発電所のPRセンターに寄りました。
原子力発電所には、PRセンターという付随施設があって、一般向けに原発の必要性や安全管理を説いています。泊原子力発電所のPRセンターのように熱の入った動作原理解説*1や、建設中に発掘された歴史資料の展示といった積極的な活動を行うところもあれば、志賀原発PRセンター「アリス館*2」のようにちょっと引くようなところもあります。女川原発のそれは…寒かったです。いろんな意味で。
さて、PRセンターに行ったのが3時ですが、女川原発は街から相当遠いところにあります。センターを出た時点で4時くらいでしたか。宿の予約を取っていないその日は、もう泊まるところを探す必要のある時間です。その時点でめぼしはつけていなかったもの、とりあえず漁港に下りてみました。原発を対岸に見ることのできる漁港には、船宿らしきものが2,3軒あります。
1件目「今日はやってませんので」と、体よくお断り。
2件目「今日はフネの準備をしてないんで、おもてなしできませんが、それでよければ」
いいですよ、いいですよ。単車野郎一人旅です。飛び込みでおもてなしなんぞ期待した日にはバチが当たります。で、2回の部屋をあてがわれ、6時といわれた食事時間に降りていって、呆然としました。コタツにいっぱい食事が並んでいます。泊まっているの私だけ。ご飯は一膳だけ置いてありますから、食べるのも私だけです。
「こんなものしかありませんが」
こんなものって、あわびだけで料理が3品ありますよ! 刺身とフライと煮付けのどの魚料理に最初に箸をつけようと考えながら「いただきます」「どうぞ」。
って、横におじいちゃんが。
私が食事をする間、ずっと同じコタツにおじいちゃんが入ってるんですね。私も嫌いな口じゃないので、
「おおきな魚拓ですね」
とか、
原発できたときって反対運動なかったんですか?*3
とか、
「相撲は誰が優勝しますかね」
なんて聞くわけですが、まぁ、いろいろ答えてくれること。うるさくなく、だまりずぎず。見事な会話術です。で、ここではっと気づいたわけです。私はどうやら客人として一家の主にもてなされているらしい。ちょっと背筋が冷えましたね。たかが30代前半の、それも他人様が働いているときに休みをとって単車でぶらぶらするような野郎が客人としてもてなされているんですから。その家だか、その地方だかではきっと「そういうもの」なのでしょうけど、予期せぬ出来事に気分がよかったことは言うまでもありません。
ちなみに翌日朝ごはんの後、恐る恐る料金をうかがいましたところ、4500円だか、5500円だかでした。安い。もっと吹っかけられても文句言えないのに。
以来、単車で平日遊びに行くときには翌日船を出さない船宿をあたってみることが多かったです。先方もいやなら断るしね。面白かったですよ。何でこんなことをいきなり書いたかと言うと、はてなのトップページの新着写真をクリックしたら、「遊漁」第3春日丸の釣り情報だったからです。久々にはてならしい楽しみを味わいました。第3春日丸さん、関係ないトラックバックですみません。

*1:「詣」は日本の原発の半分もまわらなかったが、ここが一番おもしろかった

*2:志賀原発はどこから見ても高い木に囲まれていて、外部からその様子を知ることができない。アリス館の塔から中をうかがえたが、アリス館は原発の敷地外にある。

*3:降りてくる道には、地元青年会の反対看板があった。ちなみに当時は原子力発電所とは何か、だれもよくわかっていなかったので反対はなかったらしい。立派な道と学校ができてよかったとのこと。それまで小学校に舟で通っていたとか

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