組み込みの三つの顔

ATOMが下に下りてきたので、上に上がってきた組み込みプロセッサとぶつかるよね、という意見。

対して組み込み用途CPUはというと、より高い処理能力が求められるようになってきて、むしろインテル86系プロセッサのようなものに近づこうとしている。組み込み用チップベンダーは「そんなところには向かっていない」と否定するかもしれないが、方向としてどう見たってそっち行ってるよね?というのは明らか。

そういう動きは確かにあるのですが、補足するならばx86的な方向を目指しているのは「組み込みプロセッサ」ではなく、「組み込みプロセッサの一部」です。それは組み込みを目指しているのが「x86プロセッサ」ではなく、「x86プロセッサの一部」であるのと同じです。そういう意味で「そんなところに向かっていない」というベンダーの意見は一概に間違いとは言えません。
組み込みプロセッサってのは、だいたい3つくらいの領域に分かれたように思えます。

Deep Embedded
いわゆる組み込みマイコン。機械の奥底でモーターだの電源だの信号だのをひっそりと制御している。出荷数ではこれが一番多い。たとえば自動車一台に乗っているマイコンの数は年々増えている。
SoC
BD-PlayerやTVのようなディジタル・システムの心臓部として使われるのがSoC (System on Chip) LSI。SoCの中で多くのディジタル回路に奉仕しているマイコンが多数ある。このマイコンを強力にするか否かはSoC設計者の思想しだい。
Gadget
こういう分類には異を唱える人が多いかもしれないが、充実したUIFを持つ情報機器が急速に増えている。PDAPSPiPhone, Androidのような製品がそれ。リンク先で紹介されているWEB Padなんかもその一例。通常のSoCよりソフトウェア依存度が高く、ソフトウェアの開発と流通が重要になる。

ATOMが当面目指しているのは上の三つのうち、Gadgetです。ですのでPandoraBeagle Boardで使用されているOMAPを作っているTIはATOMと衝突するでしょう。
IntelATOMの系列でGadgetを狙うのはきわめてまっとうです。Gadgetはその性質上アプリケーション・ソフトの重要度が高いです。たとえば人はiPhone自体だけではなく、その上で走るアプリを重視します。x86の強みは、そのハードウェア自身よりもソフトウェア開発ツール資産にあるといえます。であれば、狙うべきは上の三つのカテゴリでもっともソフトウェアが重視されるGadgetであるべきです。
確かに組み込みx86ボードってのは存在しますし、その上での信号処理のような分野は私も期待しないことはありません。が、組み込みx86ボードって、Gadget市場とは比較にならないくらい小さいです。あくまで傍流。
そういえば、SonyがPS4でLarrabeeを検討しているというニュースが流れています。もし、SonyIntelに乗り換えたら将来のPSPのプロセッサは黙っていてもIntelがGadget領域にLarrabeeを持ち込んでくれてSonyはハッピーかもしれません。それほど単純じゃないけど。
x86Windows/linux/MacOSのような巨大かつメジャーなOSを離れると、単なる消費電力の大きなプロセッサに過ぎません。なんにせよ、競争で面白くなるってのはまったく異をはさむ余地がないです。みんなもっとやれー。

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