棺桶に持っていったもの

「棺桶に持っていく」という言葉は、大切なもや秘密を自分一代で終わらせるという意味です。壁画は棺室に描いてあるものですから棺桶に持ってけるものではありません。しかし、死者のために描かれた絵は、あの世に持っていくものといえるかもしれません。

保存に尽力している方には申し訳ないのですが、本来未来なき死者のために描かれたこの壁画を未来のために保存するということに、漠然とした無力感を抱いてしまいます。
ふと思い出したのが徳川家茂の写真の話です。正室の和宮の墓の前腕の辺りから発見されたガラス板に、徳川家茂と思われる人物が写っていました。しかし、次の日再び見たときには湿式すでに変質して何も写っていなかったそうです。
不思議な話でもなんでもなく、単なる化学変化です。にもかかわらず死者の持ち物についてたわいもないことを考えてしまう話です。
和宮といえばhttp://www.elph-studio.com/gengi/shougun.htmlに、徳川家茂が遺骨になって出征先から帰ってきたときに和宮が頼んでいた土産の西陣織が一緒に届いたという悲しい話が紹介されています。そのときに彼女が詠んだ歌

空蝉の唐織ごろもなにかせむ
綾も錦も君ありてこそ

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