Microsoftがリモートワークによって社内に何が起きたかを検証しています。
一番重要な点は、おそらくここです。ちょっと意味を取りにくいです。
正規のビジネスグループと非公式のコミュニティの相互接続性が低下し、グループのサイロ化が進んでいることが分かったとしている。
つまり、社内には正規のビジネスグループ*1とは別に、個人間のつながりによって構成されるネットワークが存在しており、後者による情報流通が前者の生産性を底上げしているという指摘です。この指摘は以前からされていましたが、リモートワークに移行したことで計測可能な形で顕在化したというのが論文の主旨です。
リンク先の論文では「マネージャーは他の人よりも大きく生産性を落とす傾向がある」ということも指摘されており、これは興味深いです。マネージャーの時間の大部分が部下の問題への対処や業務評価、他の部署のマネージャーとの対話に費やされており、リモートワークによってこれらの効率が落ちるからです。また、エンジニアの効率も落ちており、これはソフトウェア開発チームは会議などの公式の場の外で行われるコミュニケーションに依存しているからだろうと、指摘しています。
以下、ちょっと愚痴っぽくなります。この現象は「支社」とくに海外支社に働く人たちにとってはずっと前から知られていたことです。本社のような多機能で意思決定が起こなわれる場では個々の人が立ち話で最新かつ重要な情報を交換します。しかしながら、物理的に離れた位置にある支社ではそういった情報に触れることはできません。さらに海外支社となると時差により、さらにコミュニケーションの回線がふさがれます。
本社にいる人はそれだけで生産性があがり、支社に居る人はそれだけで生産性が下がります。
これは妄想の類ですが、「正規のビジネスグループ」は本質的にグループ間のコミュニケーションを阻む、あるいは拒むことを正当化する傾向があるように思います*2。それに対して個人のネットワークには正規のビジネスグループが持つこの悪癖を埋める効果があるわけです。「支社」という立場は正規のビジネスグループの中でも取り立てて強く外部とのコミュニケーションを阻みます。支社に居れば最新の情報にはアクセスできませんし、最新の問題にも寄与できません。いきおい、言われるがまま「目の前の問題にだけ盲目的に取り組む」ことになります。本社の人々と同じ生産性を望むことが酷でしょう。
支社が持つ地理的断絶は「仕方がないこと」と受け止められていますが、実際には遅効性の毒であると考えるべき問題に思えます。