「チェルノブイリは10日で収束した」という欺瞞

チェルノブイリは10日で収束したのに福島は」という人がいます。それはチェルノブイリと同一の事故が起きて、同一の結末を迎えたいときにだけ有効な比較です。
福島*1チェルノブイリと比べて軽度なのか、重度なのかという比較は横に置いておくとして、チェルノブイリと福島の事故の違いはきちんと把握しておく必要があります。
チェルノブイリ事故は、核分裂の連鎖反応が進行中、いわゆる臨界状態での爆発事故でした。この事故では炉のふたが吹き飛んだことで臨界状態の高温の炉心が完全に外部にさらされ、炉心冷却水を一気に全喪失し、臨界が停止したか否かを判断することもできないまま、大気に露出した中性子減速用黒鉛ブロックが高温で燃えました。一気に何もかも埋めてしまう以外、何の手も打てませんでした。ハードランディングです。これを持って収束と呼ぶなら、事故車を谷底に突き落とすのだって「廃車手続き」です。
福島原発は事故発生時点で臨界状態にはなく、炉心溶融が起きるか否か、起きたとしてどのくらい進んだのかわからない状態でした。放っておけば確実に炉心溶融が起きる中、数々の予期しない問題があったとはいえ、現場の必死の努力でぎりぎりのところに踏みとどまり、炉心と燃料プールの温度はなんとか破滅的な状態にならずにすんでいます。
テレビを見ていた人の中にはこのまま何事もなく復旧が終わってめでたしめでたしだと思っていた方もいるかもしれませんが、そんなことはありえません。近づくことすらできなかった建屋に近づいて、電源を投入すれば、それまで憶測でしかなかった状況が明るみになります。それらがすたすた歩いて行ってスイッチを切るだけで解決するはずがないのです。
福島第一原発が目指すべきはソフトランディングです。原子炉とプールを冷却し、放射性物質の漏洩を食い止め、地震と爆発で破壊された補助機械を修理しなければなりません。その上で、福島第一原発にあるすべての核燃料を安全に取り出し、炉を解体して初めて収束したといえるのです。最初の時点で埋めてしまえという声を多く聞きましたが、水が入ったままの炉をコンクリで埋めても、あとからじくじくと放射性の水が漏れ出すことは目に見えていますし、コンクリが固まる前に蒸気が噴出すれば、そこに定常的な漏洩経路ができてしまいます。石棺化は最後まで控えるべき下策なのです*2
チェルノブイリは10日で収束したという意見は欺瞞です。そう言うことを言っている人は、チェルノブイリと福島の違いを全く理解していないか、それらにまったく興味がないかのいずれかです。もちろん、この事故を利用して政争の具としたい人には「チェルノブイリは10日で収束した」という言葉はすてきな魔力を持っています。そういうことです。

*1:いま、書いていてものすごく嫌な気分になった。福島という言葉はチェルノブイリという言葉と並べて語られるようになってしまった。

*2:それでもやるときは一気呵成にやらないといけない

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