Google Chrome OS

先週発表された、Googleの新しいOSプラン、Google Chrome OS

例によって、各方面から狂ったように考察が提出されていますので私なんかが駄文を付け加える必要はないのですが、まぁいいや。思った事をいくつか書いておきます。

面白い Gears

Chrome OSは、説明によれば「Chromeブラウザを動かすことを目的とした超軽量Linux」です。ワープロ表計算ソフト、メール、スケジューラなどは持ちません。それらのアプリケーションはすべてオンラインのアプリケーションを利用します。
このような発想の背景には都市部での無線ネットワーク機能が充実してきたことがあります。たとえば、私は仕事でe-mobileを利用していますが、仕事で行く行動範囲のほぼすべてをインターネットに接続した状態で過ごすことが出来ます。また、多くの喫茶店やファーストフード、空港が無線LANホットスポットに対応しており、ほんのわずかの操作で無線LANに接続できます。また、先日正式にサービスが始まったWiMAXは、無線ネットワークの選択肢をさらに広げました。
ビジネスで使用する基本アプリケーションのほとんどの種類はオンライン版も提供されていますので、これらを使えば、重量級のアプリケーションをインストールして持ち歩く必要など無いし、それらを動かす強力な*1ノートPCは不要です。必要なものはjavascriptjavaで記述されたアプリケーションを動かすブラウザだけです。
つまり、

のように、オンラインだけで日常業務をこなすことが出来ます。
このような、オンライン・アプリを使った軽量端末のアイデアは古くはオラクル等が提唱したNCまでさかのぼりますが、広く成功したとは言い難い状況です。それらが失敗した原因の多くは、現在では取り除かれていると思われるものの、それでも一つだけ重要な問題が残っています。
接続できないときにはどうするか。
オンライン・アプリは、その名の通り、接続されていて初めて動作します。電波が入らない地域*2や部屋では手も足も出ません。
Chrome OSは、これに対してGoogleが既にリリースしている技術であるGearsを使用しています。Gearsは、オンライン・アプリをオフライン状態で動かせるよう支援するインフラストラクチャで、クライアント側にインストールします。Gearsはアプリケーションの要求に応じてデータのローカルへの保存、サーバーとの同期といった機能を提供します。
Gearsは興味深い技術です。少なくとも口上を真に受ける限りでは、比較的*3簡単にアプリケーションにオフライン機能を追加できます。Gearsへ対応しているGoogleのアプリの話題を調べてみると、

と、なかなか広がりを見せているようです。
「それクロームでやれるよ」「それクロ」などという言葉がはてなで使われる日がくるかもしれません。

成功するかどうかは別として、潜在市場規模は大きい

私は日頃ノートPCを持ち歩いていますが、開発システムを持ち歩く必要があるのでChrome OSに乗り換えることは出来ません。しかし、仕事でノートPCを使っている人々の多くは、Chrome OSへの切り替えが可能ではないかと思われます。
たとえば、最近のちょっとしたヒット商品として挙げられるポメラ。あれなんか「テキストをがんがん打ち込めるだけ」の機械に喜んで3万円払う人が数万人規模でいることを証明しています。テキストどころか、表計算もスケジュール管理もWEBアクセスもできて、ノートPCより軽くて安くて速く立ち上がる機械に興味のある人は、それこそどれほど居るかわかりません。
一方で、それがハードウェアメーカーの注意を引くほど居るかどうかは別の話です。世界市場の規模が10万台では、多くのメーカーが即時撤退をするでしょう。
おそらくは、企業での情報システムを巻き込めるかどうかで成功・失敗が分かれるでしょう。サーバー・クライアント・システムは比較的短時間に端末をChrome OSマシンに置き換えることが出来るはずです。あとは、ローカルで行っているレポートの製作などを全部WEBアプリに変更するような提案が多く行われるようになると、企業ユーザーは雪崩を打ってChrome OS機に切り替えるかもしれません。
サーバーからアプリケーション、端末までソリューション丸々の提案・開発が出来る企業の動向に注意すると面白いかもしれません。Googleが発表したFAQの中では、HPがその位置にあります。富士通とかNECはそう言った動きを出来るでしょうか。興味深いところです。
Googleは2007年にGearsを発表して、業界全体のオフライン作業への興味を引き、つぎに2008年にChromeを発表して同社が自由に使える軽量高速ブラウザに対応するよう業界に促しています。いずれもユーザーをハッピーにする技術を出すことで、関連企業がそこに集まってくるように仕向けています。そして、最後の仕上げがChrome OSです。「失敗するさ」という声も聞こえますが、Googleにしてみると、細工は流々仕上げをご覧じろ、というところでしょうか。

Google Presentationsは改良される

Googleのオンラインアプリのうち、致命的に非力だと思われるのはPresentationです。これはPower Pointの役割をしますが、圧倒的に表現力が弱いのです。ビジネスに食い込みたければ、せめてOpenOffice並みの互換性を持たせるべきでしょう*5Googleはここを強化してくると思われます。
Chrome OS機の量産が始まる頃には、Google Presentationは激変している事でしょう。

そこに居ましたか、Texas Instrumentsさん

COMPUTEX Taipeiのニュースを読んで首をひねっていたのは「TIはどこにいる?」ということです。当初の目論見からそれて、ユーザーの嗜好のままフルスペックのNOTE PCヘ向かい始めたNet Topに代わり、Google Androidを搭載した小型機が注目を浴びていました。
QualcommのSnapdragon (ARM) を搭載したNet Topや、AtomによるNet TopにAndroidを搭載した製品が紹介されていました。また、試作品があることから、NVIDIAもその分野にTegraで殴り込みを掛けてくるのは間違いないでしょう。しかし、TIの姿が見あたりません。TIはCORTEX-A8とC64+という、超弩級のOMAPを持っており、BEAGLE Boardなどのユーザーコミュニティを支援しています。また、Androidも移植が終わっており、キーボードのついた開発プラットホームまで作っています。
そのTIが、COMPUTEXで姿を見せないので「Net Topには興味ないのかな」と思っていたのですが、どっこい、Google Chrome OSのFAQで初期賛同メンバーとして紹介されていました。あるいは、Androidをパスしてこちらに注力することにしたのかもしれません。違うかもしれませんが。
NVIDIATegraをひっさげて参入するでしょうから、Qualcomm、TI、Freescale、NVIDIAの間で熾烈なHD動画表示能力合戦が繰り広げられることでしょう*6。最初に脱落するのはFreescaleだろうなぁ。
x86にこだわる必要は、もうありません。CPUとチップセットの動作時消費電力がぐっと下がるので、放熱や電池といった部品を小型化できます。相対的に消費電力が大きくなるLCDバックライトのせいで、有機LEDディスプレイの普及が早まるかもしれません。
大規模ストレージや強力なCPU、大型の電池*7を必要としないChromeのソリューションは、「エコ」であるというようなキャンペーンをGoogleが張るかもしれません。

たぶんネットにCDのリッピング出力を置くサービスが広がる

現在、著作権の関係でその手のサービスにはグレーなイメージがあります。が、Chrome OSが実現すると、自分の音楽ファイルもネットに置くのが当たり前になるでしょう。権利者を納得させながらリッピング結果をネットに置くサービスが現れるのではないでしょうか。

どうなるかな

Googleにとって、Google Chrome OSはMicrosoft攻略のための最後のピースかもしれません。これでクライアントからサーバーまで、Microsoftにお金を払わないビジネスシステムを構築できるようになります。
PCで絵を描く、PCで音楽を作る、プログラムを作るといった特殊な活動を除くと、メール、アドレス帳、スケジューラ、ワープロ表計算、プレゼン、日記、写真の整理、音楽を聴くといった日常アプリは全部ブラウザ上で実行できるようになるでしょう。
これまで、googleはサービスに対応する、クライアント側のアプリケーションを持っていないことが弱みとされていました。Chromeブラウザ/Gears/Chrome OSのコンセプトは、それこそが強みであると主張しています。

*1:つまり重くて高価な

*2:Windows Mobile端末を日本のキャリアに供給していた某社の工場は、長らく無線インターネットと縁がなかった

*3:自分で1から書くよりは

*4:このサービス、興味深い

*5:Open Officeのプレゼンテーションソフトは、パワーポイントの文書を、アニメーションまで含めて結構な精度で表示する

*6:差別化のポイントはそこくらいしかない

*7:化学物質の固まり

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