沙村広明の描き出す地獄と天国

2007年も大詰め。ここ数週間、もううんざりするほど「今年流行ったxxベスト10」をご覧になったかと思いますが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。
ランキングにもいろいろ考えられます。たとえば不愉快な言葉のランキング。今年、私が不愉快だった言葉をひとつ挙げるとすれば「初音ミクの『調教』」という言葉です。より上手に歌わせるための試行錯誤をさすことばですが、実に薄気味悪い。楽器としてなら調律と呼べばいいし、バーチャルアイドルとして扱うならレッスンとかアレンジと呼べばいい。わざわざ調教という言葉を持ち出してくる感覚に、ずいぶん不愉快な思いをしました。
さて、2007年限定ではありませんが、「人間を『壊す』」という言い方も不愉快です。漫画ではここ数年よく使われるようになったと思います。尊厳もへったくれもない言い方ですが、使うほうはそれが目的で使っているわけです。人間としての尊厳すら奪い取る傷つけ方、殺し方をあらわすために。
で、そんな本とは知らずに一冊読んでしまいました。少女輪姦惨殺本。

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

沙村広明というと、代表作は月刊アフタヌーンに連載中の「無限の住人」です。独特の線で描かれる斜め方向のあだ討ち時代劇は妙にサイバーパンクっぽい湿っぽさをにおわせるという、変り種。ヒロインである凛*1が、ふとしたことで不死の浪人万次と出会い、共に敵を倒していく話です。この作品が、月刊誌でもう10年以上連載を続けており、終わりが見えるのやら見えないのやら、妙にタイトルが皮肉っぽくなってきています*2
終わるか否かはともかく。沙村の才能そのものは高く買っているわけで、先日人と待ち合わせしているときに偶然この本を見つけ、名前買いしたわけです。それがこんな猟奇的な内容だとはおもわなんだ orz。
時は19世紀終わりごろ、所はイギリス風の某国。ブラッドハーレー伯爵は孤児院から少女達を幼女として迎え、教育を与えて劇団員として育てます。自分と同じ境遇から救い出され、華やかなステージの上で美しい衣装をまとって劇を演じている女優達を見、全国の孤児院の少女達は「自分も養女になれたら」と、迎えの馬車がいつの日か訪れることを夢見ます。が、馬車に乗った少女の多くは、極秘のうちに凄惨な運命に投じられることに…。
作者にはひたすら猟奇的な画集があるそうです。そんなこととは知りませんでした。なんだか、読んだ後に裸のランチの解説にあった「罪の無いポルノだと思って買っていった旅行客にショックをあたえることになった」とかいうエピソードを思い出しました*3
ということで、お勧めしません。読むな。
口直しに取り寄せたのがこっち。
竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

無限の住人」の連載の合間に季刊のほうに短期(?)連載した作品を集めた短・中篇集です。作品の世界観に縛られてめちゃをやれない*4無限の住人」と違い、こちらの話はハチャメチャです。
表題作の「おひっこし」は彼氏のいる美人な先輩に届かぬ思いを寄せる大学生が主人公の青春ラブコメ。デートの事前シミュレーションが全部通用しない、動物園の動物紹介がゲームの敵キャラ紹介、笑いのシーンが無駄にかっこいい、JoJo頭文字D、妄想、ツッコミ猫、延々と笑いの嵐です。
なんというか、沙村宏明が持っているクルクルとよく回転する頭がよくわかる一冊。切なくも笑いっぱなしでした。これはお勧め。

*1:炎の和服がすばらしい

*2:どうやら終わりそう

*3:正確に引用しようと思ったら本棚にない。どうやら人に貸したまま転職してしまったらしい

*4:十分めちゃともいえるが

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