暗号の歴史

小説的な読み物としても傑作の部類に入るフェルマーの最終定理の著者、サイモン・シンによる暗号史の好著です。
暗号分野に関しては商売柄数冊の一般向け解説書を読んだことがあります。そのため、目新しいことは期待薄だと思っていましたが、あにはからんや、上下2冊をあっという間に読みきってしまいました。

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

読み終わって、これまで見落としていたことに気づきました。暗号の歴史は

  1. 単アルファベット換字方式
  2. その複雑化
  3. その機械化
  4. 公開鍵暗号方式

の4ステップ程度しか踏んでいないということです。その比較的明瞭な区切りの中で、暗号はある時期には鉄壁の強度を誇り、ある時期には信頼を地に落としていました。この本はそれらのサイクルの中で時代ごとの主役の暗号方式を丁寧に解析しつつ、その時代の暗号にからむエピソードを紹介します。
フェルマーの最終定理」で見せ付けた筆者の構成力はこの作品でも遺憾なく発揮されています。欧州各国の暗号部門を絶望の縁に沈めたドイツ製機械暗号機「エニグマ」の謎が次第に暴かれていく様子はこれもまたよくできたミステリーを読むようです。もちろん、この筆者のことですからその過程を読むのに必要な知識はすべてそれまでの章で丁寧に説明されています。
ミステリー小説やハードSFファンなら時間を忘れてのめりこむことでしょう。
著者がイギリス在住であるため、アメリカの暗号解読部隊を率いたフリードマンと、日本の外交用最高機密暗号「紫」に関するエピソードなどがほとんど無視されているのは残念です。そのあたりに興味のある人は暗号の天才 (新潮選書)を是非どうぞ。

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