エレガント/嫌われる

線虫、と言う名前は園芸関係の書物日経サイエンスの読者には比較的なじみの深い名前です。園芸の世界では多くの植物の生育不良の元凶として忌み嫌われます。科学の世界ではDNAの塩基配列とその遺伝子マッピングがよく解読されている動物として知られています。日経サイエンスにはその「美しい姿」の大写しが何度も掲載されましたが、ありていに言って女性には嫌われる姿です。

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった

この本は、イギリスの研究所を軸に、いつその研究が始まり、どのような人がかかわり、どのように広がっていったかを一般読者向けにエキサイティングに描き上げています。
生物学関連の解説書を読んだことのない人には、当初描かれる研究の風景は異様かもしれません。その光景はひたすらハードワークです。顕微鏡にしがみつき、全長数ミリの細長い生物を標本化するために輪切りにしていく人もいれば、父母の組み合わせから出てくる膨大な子孫の形態をひたすら分類する人もいます。線虫を取り上げるための「つまようじ」の工夫や、コテを使った線虫カウンターの話もバイオテクノロジーという言葉とは遠くかけ離れたものに感じます。しかし、これらの活動の延長線上に現在の遺伝子関連の研究があるのですから、その間の進歩は気が遠くなるほどです。
途中、「シーモア・パパート」という名前が唐突に出てきてたじろぎましたが、そこから先はジェットコースターのごときハッキング・ストーリーでした。線虫研究の先頭を走っていた人たちは、自分達に必要なアプリケーションだけではなく、ユーティリティやシステムまで自分自身で組んだのです。「それは私の仕事ではない」と口にしたら、きっと歴史に名を残せなかったのでしょう。
シーモア・パパートは児童用プログラミング言語LOGOの開発者としてコンピュータ科学史に名を残している人です。20年くらい前は一般向けのコンピュータ雑誌でもタートル・グラフィック関連記事ではよく名前を見かけました。その人が今頃になって線虫の一般解説書にひょっこり現れたかと思うと、彼の講演を聴いた等とBlogに書く方もいたりして、少しめまいを感じる今日この頃です*1

*1:ま、私が知らないだけでご本人は当然活動なさってるわけですが

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