ちょっと前に16進数を知らないIT技術者がいるという話を読みました*1。別のblogエントリーでは「IT業界で知っておくといいカタカナ」*2と称してキャッチーでクールかつトレンディーな言葉が並んでいたくらいですから、16進数なんかいまさら知らなくてもITくらいできるでしょう。IT技術って抽象度を高める方向に行ってますし。16進数よりユーザーのことを知れというのは正論だと思います。
しかし16進数を知らないということは、コンピュータの構造をまったく知らないということです。
後藤弘茂氏のコラム*3を読んでコンピュータの仕組みに詳しくなれると思ったら大間違い。組み込み関連業種に就職する前に、本当のコンピュータ基礎知識を身につけておいてほしいものです。
ひとつの指標としてあげるとすれば、CQ出版社のトランジスタ技術誌2006年5月号から連載中の「6502マイコンボードを作ろう」がきちんと理解できる技術水準は必須です。
- 回路図の意味がきちんとわかること。
- それぞれのRとCがなぜ必要なのか、なぜその値なのか理解できること。
- 説明を求められたら、データシートを元に詳細を説明できること。
- データシートを見なくてもピンの名前からおおよそ何をしているのか理解できること。
- 自分で組み立てるには何をすればいいかわかっていること。
- 出てくるプログラムの意味と動作を理解できること。
- 簡単なアセンブリプログラムを作れること。
別に6502でなくても結構です。AVR、SH、ARM、何でもかまいません。上の各項目は就職前に抑えておいてください。
こういった小さなマイコンを強く推すのは、独学で隅々まで理解できるからです。たとえば、
- レジスタの種類と働き
- 演算やアドレッシング
- スタック
- 条件分岐、割り込み
といったアーキテクチャ、
- モニタ・プログラム
- アルゴリズム
- 割込み処理
などのプログラム、
- バスの動作
- プルアップ・プルダウン
- チャタリング防止
- 破壊防止
などの回路技術を一人で見渡すことが出来ます。大きくなりすぎたコンピュータ業界の中で一人でソフト、アーキテクチャ、実装をすべて見渡せる機会はそうありません。そこでこういった技術をマイコンを使ってバランスよく身につけておけば、次のステップで少々難しい問題にあたっても乗り越えることが出来るようになります。
なにより、小さなマイコンのよいところは楽しいことです。最近では秋葉原のショップで1000円出せば、電源とバイパスキャパシタをつなぐだけで動作する完全なマイコンを買えます。こういったマイコンは、おもちゃや楽器、あるいは他の自作回路のコントローラとして手軽に使うことが出来ます。
組込みマイコンにはIT技術のような派手さはありませんが、掌の中で動く機械を自分自身で自由に操ることができるという醍醐味があります。
せっかく組込み業界に足を踏み入れるのなら、基礎をしっかり押さえてどんどん勉強するのはもちろん、組込み分野ならではの楽しさも堪能しては如何でしょうか。