いろいろ

ここのところ、「はやぶさ」を取り巻く環境にうんざり気味なので眼をそらしています*1。その辺をメモ。ほとんど愚痴な上に自分の考えをまとめるためのメモなので読んでも気分を害されるかもしれません。

  • 清水正巳氏の記事コメントして以来、松浦氏のBlogがおかしくなっています。怒りたい気持ちはわかりますが、完全に頭に血が上っているので松浦氏のほうもぼろぼろ。特にGoogle Danceに執着した記事を書くなど、先手でも打っているつもりかとあきれてしまいました。
    • とはいえ、「はやぶさ」運用中の情報開示に関する松浦氏の功績が揺らぐものでもありません。
  • で、その松浦氏に感化される形であちこちのBlogが清水氏たたきを展開。怒りをこめて正義の鉄槌を下さん、って感じ。
  • 清水氏の記事は「はやぶさ」プロジェクトをひどく見誤ってはいるものの、文脈から切り離せば重要なことがいくつか書いてあります。
    • はやぶさが成功したのか失敗したのかわかりにくいのは事実
    • JAXAが失敗を成功と言いつくろっているのも事実
  • 私が見るのは大抵ネット上のはやぶさ支援Blogだからかもしれませんが、JAXAに対して「君はやれば出来る子なんだよ、よくがんばったね」的な意見をたくさん見ます。もう少しファン意識を抑えて冷静に事態を分析する目がほしいです。
  • 予算と、予算内で出来ること、しなければならないことの論議がねじれているのをよく見ます。
  • 一部に「国民に全部をありのまま話すことは無いんだ、どうせ理解できないんだし、間違って伝わると失敗呼ばわりされてつぶされるのだから」と言う声を聞きますが、非常に不愉快です。何であれ、「我々専門家がやるからあなた方は黙って従いなさい。知る必要もない。」というスタンスの活動に税金を投入するのは反対です。

JAXA広報の不備

今回松浦氏の活躍で却って目立ったのがJAXAの広報力の弱さです。JAXAは8月まではやぶさの広報に関してほとんど目立ったことをしておらず、サイト内のはやぶさ関連ページは作りかけで放置されていたり、情報がばらばらにおいてありました。要するに、ネットを使ってきちんとはやぶさを伝えようとする組織的努力は0で、組織統合の前のまま放置されていました。
記者会見を速報でどんどん公表する松浦氏の速度と密度にプレスリリースが追いついていませんでした。が、それは仕方ないとしても、はやぶさの状況や観測結果についての補足などが舌足らずなため、ほとんどの人が松浦氏に依存する状況を作りあげてしまいました。松浦氏は純粋に「はやぶさ」応援を目的に行っていましたが、結果的にJAXAは「はやぶさ」情報のコントロールを失ってしまっています。
はやぶさ」の長い航行時間を考えれば、事前にはやぶさが行う調査の科学的意味を科学や宇宙に関心のある子供、一般人、専門家*2、に対して幅広い解説を用意する十分な時間があったはずです。が、それは行われませんでした。JAXA自身が行わなくてもデータや試料を受け取る研究室が書いてJAXAがまとめることが可能だったはずですが、それも行われませんでした。
宇宙探査のファンとしてはっきり言いますが、特に撮影された画像がほとんど公開されていないことにはえらくがっかりしました。宇宙探査への注目を集める必要をJAXAは感じてないようです。
私は「はやぶさ」支持者の中では相当変わり者だと思いますから私の基準は横に置くとしても、JAXAは予算がほしいならばもっと納税者に予算拠出を納得させるような情報を、あるいは将来予算拠出に賛成するような納税者を増やすような活動をすべきです。的川教授が精力的にその努力をしているということですが、JAXA自身はそこに関心が無いように見えます。

はやぶさ」プロジェクトはわかりにくい

プロジェクトの科学・工学的意義がよく説明されていない上、数少ない説明にも不備があるためプロジェクトの成功・失敗がわかりにくいことになっています。最悪だったのは例の500点満点によるミッション達成度です。
まっとうな技術者ならば、ミッション中の各達成目標を100点満点とし、プロジェクト全体として平均いくら、各々の達成度はいくら、という表現をします。しかし、全体を累積化し、かつ500点満点としたことで、「電気推進エンジンを1000時間稼動させましたからもう100点なのです」という欺瞞がまかり通るようになりました。最先端科学を目指すべきJAXAでこの言いつくろいは何?と当初から不愉快に感じていた点です。
エンジンの長期運用で100点ならわざわざイトカワくんだりまで出かけることは無かったわけで、結局予算どりの方便やら何やらがごちゃごちゃになって「はやぶさとは何か」がわかりにくくなった一例です。大体なんでみんなが小惑星からのサンプル持ち帰りを期待しているのに「これは工学試験衛星ですから」なんて言い訳を何度もきかされなきゃいかんのですか。おまけに最近はプロジェクトマネージャがテレビで冒険の必要性を力説する始末。工学試験衛星って、何?
また、第一回降下の失敗が「着陸成功」とされていることにも唖然としています。はやぶさ機械的にも電子的にもイトカワに滞在するように設計されていません。灼熱のイトカワ表面への接近は素もぐりのようなものです。やることをやったらとっとと上昇して逃げないといけないし、そうするように設計されています。自律離脱がうまく行かず、イトカワに落下したまま地球の管制局があわてて離脱コマンドを投入するまで熱にあぶられたのですから、よく言って不時着でしかありません*3。あれを着陸成功と言ってのけるJAXAの神経を疑います。

予算内で出来ること、予算内でしなければならないこと

はやぶさの予算が少ないことを以って、「低予算でよくがんばった」「低予算だから仕方ない」と無条件でJAXAを擁護する意見をあちこちで見ますが、私は少し違う意見です。低予算でもやることはやらなければなりません。それが出来てなければ正しく批判され、次回同じ過ちを繰り返さないようにしなければなりません。
今回、予算の都合で重要なことをすっ飛ばしてないかと私が感じたのは次の3点の失敗です。

ミネルバの投下失敗
地上から送られた投下コマンドが「はやぶさ」に届いたとき、「はやぶさ」は大きな速度で上昇中だった。
第一回降下の失敗
はやぶさ」は何らかの理由で自律脱出に移ったが、それを中断してイトカワに落下した。
第二回降下の失敗
はやぶさ」は降下したが火薬への点火がが行われなかった。点火を禁止するコマンドが紛れ込んでいた*4

この三つを並べたとき、JAXAは「はやぶさ」のシミュレータを持っているのだろうかという疑問を禁じえません。
ミネルバの投下は下降中に行えば成功するはずでした。事前のシミュレーションをきちんとやっておけば、上昇中の投下の可能性があることは察知できたはずで、ならば投下条件を監視するコマンドをいれる、あるいは投下シーケンスを変えるといった対策が打てたはずです。
第一回降下での自律離脱失敗は、詳細が噛み砕いた形で発表されていませんので本当の理由はわかりません。しかし、JAXAが同じ地点を第二回降下に選んだことから、地形の異常性が原因ではないことが予想できます。やはり事前に入念なシミュレーションを行っていれば「はやぶさ」がイトカワ表面であぶられ続けた事態は避けることができたと思えます。
第二回降下では火薬に点火させないコマンドが「はやぶさ」によって実行されているとJAXAは発表されています。これは信じがたいことです。タッチダウン・シーケンスの実行過程が発表されていない*5ため憶測しかできません。しかし、それでも何らかの対策が打てたはずだと思われます。
あらかじめ送っていたシーケンスを地上からの指示で実行していたとするならば、送る前にシーケンスをシミュレータに通して正しく実行できるかを確認できたはずです。
仮にタッチダウン・シーケンスのコマンド列をその場その場で組み立てて地上から出していた場合でも、送信前にシミュレータに通せば間違ったコマンド列をスクリーンできたはずです。
シミュレーターがない、ということは信じたくありません。100億円を超える探査船が、実は補助機器を端折ってほとんど人間の精神力と体力によって運用されていたということですか?違うと考えたいのですが冷静に考えて納得できる失敗の原因は発表されていません。
はやぶさ」が低予算プロジェクトであることは事実です。しかし、だからと言って人間のミスが入り込むような余地を残したまま巨額のプロジェクトを進めてはなりません。このプロジェクトはあまりにも土壇場まで人間に頼りすぎているように思えます。低予算であってもしなければならないことはしなければなりません。また、巨額のプロジェクトである以上、それを正常に進められるだけの予算を確保する義務はJAXAにあります。

まとめ

はやぶさ」プロジェクトはまだ終わっていません。地球から3億キロメートル離れたところで誰に手を差し伸べてもらえるでもなく、「はやぶさ」はくるくると異常な自転を続けています。異常な状態から正常な状態に戻る可能性は1/2よりやや高いだけ。自転が正常化しても帰って来るには幾つも大きなハードルが待っています。
それでも、砂粒程度のサンプルを持って帰ることができればと期待している人たちがいます。日経サイエンス2006年2月号には直径1mmにも満たない結晶を研磨し、極細のイオンビームで試料を蒸発させて成分分析を行う方法が紹介されています。私にはわからないことですが、たとえ「はやぶさ」が持ち帰るサンプルが少量でも、地上のサンプルでは得られない何らかの科学的成果が得られるのかもしれません。
日本の送り出した衛星が高い成果を挙げるのは宇宙ファンとしてうれしいことであり、納税者でも誇らしいことです。しかし、JAXAが次のはやぶさを望むなら、失敗とその理由を明らかにし、失敗を繰り返さない方策をきちんと打ち立てることが必須です。それを日の下で行わないならば、私は次の計画に反対します。

*1:それで歳差運動ばっかりおっかけていた

*2:宇宙以外の

*3:当初、私は墜落と表現していました

*4:現時点で、JAXAはこれが「はやぶさ」の不具合による間違ったデータで、本当はうまく行っていた可能性もないことはないと言っている

*5:川口マネージャは記者会見でこれが人的ミスかどうか答えるのを拒んだ

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