どこまで自律的なのか?

はやぶさは自律的である」という説明を私は何度か繰り返しています。また、googleで検索すると、やはり「はやぶさは自律的である」という記述がたくさんあります。JAXAのサイトにもそう書いてありますから、わたしはそのまま鵜呑みにしていましたし、他の方も一緒でしょう。
もちろん、自律的と言っても多くのレベルがあります。何から何まで自分で判断して探査や航法を行うものから、ごく一部だけを自律的に行うような機械も考えられます。
はやぶさが航法に関してほぼ満点であるという報道が流れている間、はやぶさの自律性について疑いを挟む余地はありませんでした。そもそもJAXAはやぶさに対してどのくらいの干渉を行ったのか一般向けには発表していません*1から自律性について思いをはせることすら出来ませんでした。
しかし、ここにきてはやぶさに与えられた自律性がどのようなものなのかを考えさせる、大変興味深い事件が起きています。
まず最初の事件がリハーサル降下の中断です。はやぶさイトカワに向かって慎重に降りていく間、各種のデータを元に姿勢や位置を決定していましたが、最終的に航法誤差が大きくなったとしてJAXAが中断コマンドを送っています。
次がミネルバの投下失敗です。失敗の原因は少々信じがたいことにJAXAからのミネルバ投下コマンドがはやぶさの上昇中に実行されたことでした。
この二つの事件に共通するのは、いずれも「想定していなかった事態でのトラブル」です。航法誤差の増大はイトカワが予想以上に暗かったこととリアクションホイール喪失による姿勢制御誤差の増大が原因とされています。また、ミネルバ投下は記者会見では明らかにされなかった理由によって、手動で行われました。
本来、機械の自律性の根底にあるのは「予想外の事態へ柔軟に対応する」という発想です。もうすこし噛み砕けば、正しい状態からずれれば自分でそのずれを検出し、誤差を補正するだけの措置をとるというのが自律性の基本です。ところがリハーサル中断の原因は図形認識アルゴリズムの適応範囲を超えてイトカワが暗かったということであり、ミネルバ投入にいたっては自律アルゴリズムの一部が切られていた節があります。
想像するに、はやぶさに与えられた自律性の範囲はかなり狭いのではないでしょうか。航法のように比較的擾乱を予想しやすいミッションではうまく行っても、降下のような難易度の高いミッションでは予想しなかった事態に対応できないような自律性であったのではないかと思われます。
あらかじめ決めたシナリオを実行できない場合、別のシナリオに変更するためにミッション手順や各種の設定を変更可能にしておくことも考えられます。そうすれば、燃料節約のために多くを手作業でこなしつつも、肝心の放出タイミングははやぶさに任せるといった方法も取れたはずです。しかし、今回の件を見るに、手順の組み換えを選ばずに手動に移行したあたりに、はやぶさの自律性の狭さと柔軟性の低さを見る気がします。
M-Vロケットの非力さとコスト高のしわ寄せがすべてはやぶさに来ているため、高度な処理を搭載できないだろうことは十分に理解できます。しかし、それならそれでイトカワ到着前にトラブルが起きたときの演習を十分にやっていても良かったと思うのですがどうでしょうか。どうも、出たとこ勝負に見えて仕方がないです。
たとえば軍隊の演習は、予定外のトラブルが起きることが全体です。組織がずたずたに引き裂かれるのが前提なので、そのような状況でも可塑的に機能しなければならないのです。ですから、何が壊れても対応できるようにつくり、訓練しておくのです。
のぞみの経験が多くフィードバックされていると聞きますが、はやぶさJAXAが今置かれているのは、まさにこのような考え方が必要な状態に見えます。

*1:発表されたってメディアには出来ませんわな。ただし、一般でのロボットの盛り上がりを考えれば、誰も興味を持たないというのは少し舐めすぎかもしれません。

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