ミネルバ放出に関する謎

17:57現在、JAXAのBlogは「高度1Km」を最後に沈黙を続けています。松浦氏のBlogは松浦晋也のL/D: 「はやぶさリンク」:ミネルヴァのタッチダウンは?以降に管制室の様子が伝えられているだけで、続報はありません。宇宙作家クラブ ニュース掲示板 にも新しい情報はなし。
ここで今日のはやぶさミネルバの動きをまとめてみましょう

  1. 14:55、はやぶさは高度100mでホバリング中(Hyabusa Live)
  2. 15:08、はやぶさミネルバ放出コマンドが送信された(松浦氏のBlog)
    • ただし、氏はホバリング中だが放出時は70~80mに高度がおちているだろうと書いている
  3. 15:24、はやぶさミネルバを放出(Hayabusa Live。時間ははやぶさの機上時間)
  4. 15:42、はやぶさより放出確認メッセージがJAXAに届く(松浦氏のBlog)
  5. 16:10、はやぶさイトカワから上昇中。高度1Km(Hayabusa Live)

ここで謎があります。
まず松浦氏のBlogによると、はやぶさは高度200mで上昇中にミネルバを放出したことになっています。しかし、上にまとめたように、放出コマンドを地球から送ったときには、はやぶさの状態は「高度100mでホバリング」だったはずです。これはなぜでしょうか。レーダーやレーザー高度計があるため、地上が把握していた高度が間違っているとは思えません。
また、不可解なのは、はやぶさミネルバ投下を指示してから確認が帰ってくるまで、34分かかかっていることです。今日のはやぶさによれば地球からはやぶさまでの距離は289,574,800Kmで、これは電波が届くまで16分5秒の距離です。地上のオペレーションでのコマンド遅延があるかどうかはわかりませんが、単純に2倍した32分10秒と、上の34分*1の間には大きな開きがあります。
ところで、はやぶさの機上時間では15:24に投下が行われています。そうするとコマンド受信後すぐに投下したことになるのですが、この時計がどれだけ精密に地上と同期しているのかは不明です。おそらく1秒程度の精度はあると考えていいでしょう。そうすると、はやぶさはコマンドを受信してすぐに放出した後、放出確認メッセージを送るまでたっぷり1,2分かけたことになります。これはそのように組まれていたのでしょうか?
ミネルバは松浦氏のBlogによると横方向に放出されたようです。1/10万gという微小重力でのリスクを考えると、放出方向はイトカワ方向であるべきです。根拠のない想像ですが、本来リアクションホイールで姿勢を変えてイトカワに向けて放出後、即座に姿勢を戻す予定だったのかもしれません。しかしリアクションホイールを二軸失ったため化学燃料ロケットに頼らなければならなくなっています。地球への帰還のためには燃料の節約が必要でそのため姿勢制御を省いたのかもしれません。
なんにせよ、イトカワ上空100m付近でホバリングしていると思われたはやぶさは、実際には異なる運動を行っていたのではないでしょうか。おそらくそれほど待たずに、松浦氏のBlogに記者会見の結果が公表されると思います。それで疑問の多くが解けるかもしれません。

記者会見

松浦氏のサイトに20時からの記者会見の結果が出ています。

問い 毎日新聞:なぜ、今回ミネルヴァは予定よりも高い高度から落とすことになってしまったのだろうか。

答え 川口:はやぶさは、降りてきたら噴射して飛び上がるという上下運動をしつつホバリングしている。今回はレーザー高度計の動作確認が目的なので、リハーサルではレーザーレンジファインダーの出力は高度維持に使えない。従って今回は、一定時間ごとにスラスターを吹いて上昇する設定にしていた。地表に機体が落ちると困るので、どうしても上昇しがちの設定にしてしまった。

どうやら、これが問題の直接的な原因のようです。ホバリング中のはやぶさは想像する姿と異なり、ラケットでテニスボールをぽんぽんとはじくような運動をしています。つまりイトカワの重力と太陽風によって加速しながら高度を下げ、ある時期にジェット*2を吹かせてポーンと跳ねるわけです。ジェットがラケットにあたりますね。
さて、ラケットと同じで強い力で長い時間ジェットをふかすと、はやぶさは高いところまで上っておちてきます。軽く短い時間ふかすと、ほんの少し上昇しておちてきます。JAXAはなぜか前者の設定にしてはやぶさの運動を高低の激しいものにしました。その理由として「レーザーレンジファインダーが使えないから」としています。レーザー高度計を使って小刻みに動かせばいいじゃないかという気もします。ここはよくわかりません。
そして、上下の激しい設定でも投下シーケンスを自動にすれば安全に放出できたものを、よくわからない理由*3で手動にしてしまいました。そのため、コマンドを送ってから16分後、コマンドがはやぶさに到着したときのはやぶさの運動を読み誤ったため、ミネルバに致命的な大きさの運動量を与えてしまった、というのが今回のトラブルのようです。

*1:切捨てを考慮すると最短33分

*2:化学燃料ロケット

*3:記者会見ではそれがベストだとしか説明していない

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