日経サイエンスの今月号に生物学者のエルンスト・マイアの訃報が出ていました。享年100歳。
10年ほど前、ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)や利己的な遺伝子 (科学選書)といった進化論関係の本を読み漁った時期があります。その際、頭に浮かんだ疑問が「ダーウィン主義って何?」というものです。グールドとドーキンスはかなり激しく意見を戦わせたようですが、互いの著作でもきつい皮肉を飛ばしあっていたように思います。ところが、どちらも「われこそは正統ダーウィン主義者」と書いています。
なぜ、異なる意見の学者が互いにダーウィン主義者を名乗りうるのか、それはダーウィン主義のどのようなあいまいさからくるのか、そもそもダーウィン主義とは何か、といったことが疑問として浮かび上がりました。
そこで、niftyサーブでこの疑問を投げかけたときに紹介された本がマイアのこの本です。
ダーウィン進化論の現在 (Questions of science)
- 作者: エルンスト・マイア,養老孟司
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1994/04/26
- メディア: 単行本
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前半は肩慣らしとしてそもそも種とは何かについていくつかの立場を紹介します。そして、
- ダーウィンの進化論と一口で言うが、実際には一枚岩ではなく、複数の説の集合であること
- ダーウィンの進化論は複数の思想と衝突していること
- ダーウィン主義という言葉は、使う人によって異なること
- 現在「進化論」といったときには、ダーウィンの提唱したすべてではなく、「共通起源説」「ランダムな変異と自然淘汰」を軸とした進化論が主体であること
などが一つ一つ丁寧に説明されています。現在でも「ダーウィンは間違っていた」などということを聞きかじって得意げに話す人が絶えませんが、この本を読んでみるとそういった意見がどれくらい見当違いかよくわかります*1。
今回、改めて読み直してみましたが、ややとっつきにくいなと感じました。これは取り扱う題材が思想や哲学に踏み込んでいるため、一般的な科学知識を超えるものがあるからです。たとえば、この本では度々実在論が登場しますが、実在論が何かある程度理解していないと、当然ながら話を追うことが出来ません。
やや難解ではありますが、それでも進化論に関する歴史的は経緯や現在の状況を比較的手軽に把握できる点でお勧めといえる本です。
*1:聞きかじりのゴシップとして話している人と、宗教的意図があって話している人がいます。宗教的意図がある場合は当然ですが科学的にははじめから見当違いです