ボルツマンの原子―理論物理学の夜明け
こちらはずいぶん前に読んだ本です。id:v4641sgrさんの日記を読んでふと思い出しました。ボルツマンが不遇の中に死んだことはちょっと物理に興味のある人の間では有名です。が、実際にこの本を読んでみると、それは不遇などというなまやさしいものでなく「ほら見ろ、やっぱり神はいない!」と叫びたくなるほど残酷です。
19世紀後半は、産業革命に後押しされる形で熱力学が長足の進歩を遂げた時代です。多くの気体が液化され、その特性から気体の分子説がかなり有力になった時代です。また、一方古典物理学が成熟しつつも大きな矛盾が問題になっていた時代です。今になって振り返れば、20世紀になったとたん、プランク量子力学の幕を開き、オンネスが最後の永久気体ヘリウムを液化し、ライト兄弟内燃機関で空を飛ぶといった、熱力学上のイベントがもうすぐそこまできていたのが19世紀末です。こういった状況では一人の人物が起こした革新が一挙に何もかもを変えてしまうといったことが起きます。
ボルツマンはまさしく正しい時期に現れ、正しい仕事を行いました。彼は気体の分子説に基づいて熱が気体の運動によるものであると見抜き、それを統計によって定式化し、エントロピーの本質を暴きたてました。
その業績はいくら高く評価しても評価しすぎることはなく、真に革新的なものでした。しかし、彼は不遇のうちに死にます。当時の大御所エルンスト・マッハから長期にわたって徹底的に迫害されるのです。
マッハの主張は「原子なんか見た奴はいないだろう」というものです。これはこれで彼の哲学に沿った科学観からくるものですが、自分の科学観にあわないというただそれだけでマッハはボルツマンを徹底的にいたぶり、自分より若い死に追いやります。
この本はボルツマンの境遇の悲惨さを紹介するだけでなく、彼がいかに画期的だったかを丹念に説明しています。おすすめです。
ボルツマンの原子―理論物理学の夜明け

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