提案内容はおもしろいが内容に一部疑問あり

知識創造企業 : ISBN:4492520813
「企業にとって知識が重要なことは間違いない。ならば知識を活用するだけではなく生み出すには、そしてそれを武器にするには組織はどうあるべきか」について提案する本です。
提案内容は大雑把にいって二点あります。

  • 定型化できる知識(形式知)、できない知識(暗黙知)を個人と組織の間で共有するために、常に循環させる必要がある。暗黙知形式知形式知暗黙知
  • 組織構造はトップ・ダウンとボトム・アップを重ね合わせた構造とし、ミドル・アップ・ダウン・マネージメントを行う

この二点を行うことによって組織活性化を行い、組織の知識をダイナミックに活用すべしというのがおおまかな主張です。その主張そのものは興味深いのですが、残念なことにいくつか問題があります。
まず本書の構成が冗長に過ぎるという点があります。ハードカバー400ページで2000円ですから決して高い本ではありませんが、内容の相当量が例に費やされています。それはもちろん「いかに我々の主張が正しく、他の方式は間違っているか」という主張です。量が適量でかつ適切な例であればそれも問題ないですが、ありていにいって「マンセー」が多すぎると感じます。
そして例の内容も適切でないと思わせるものがあります。例えばトップ・ダウン経営の例としてジャック・ウェルチによるGEの例が挙がっています。しかしこれは適切な例なのでしょうか。この部分を読む限りウェルチの豪腕改革は成功しているように思えます。なぜこの方法ではだめなのかよくわからない部分でした。
また、戦時中の日本軍とアメリカ軍の比較もかなり奇異な感じを受けました。さすがに著者等もあんまりだと思ったのか注釈で苦しい言い訳をしています。が、「日本軍は組織構造の柔軟さを欠いたことが主要因でアメリカに負けた」という結論が、太平洋戦争の結論として正しいと賛同する人は少数でしょう。戦争はボードゲームではなく、もっと複雑な要因が絡み合ったものです。
経営学は科学ではないですから例題に我田引水があるくらいで目くじらを立てるべきではないかもしれません。しかしながら、致命的に間違った比喩は看過できません。著者等は本書の後半で新しい組織構造を提案します。トップ・ダウン組織とタスクフォース組織が二層構造をなし、企業内知識データベースを活用するという構造です。この提案そのものは妥当だと思いますが問題はそれを「ハイパーテキスト型組織構造」と呼んでいることにあります。
著者等は新組織構造をボトム・アップとトップ・ダウンの併用としていますから、普通に名前をつければハイブリッド構造と呼べばすみます。しかし執筆当時急速に注目されはじめたWWWに感化されたのか、誤ってハイパーテキストと呼んでしまっています。そのためハイパーテキストが何かを知っている人はその名前から組織構造を正しく想像できず、逆にこの本でハイパーテキストという名前を知った人は間違って概念を覚えることになります。
提案の中核に間違った名前をつけてしまったために、後半「ハイパーテキスト型組織」という言葉が繰り返されるにいたっては、本に対して痛々しさすら感じてしまいます。
こういったことは揚げ足取りなのかもしれませんが、企業における知識創造を語ろうとするならば、間違った知識に基づく名前付けをしてどうするの??と突っ込まれてはまずいでしょう。さらに言えば、私が専門である領域でこういう間違いをしているということは、私が専門でない領域でも同様の間違いをしているのではないかという疑念を払拭できません。
なんとなく水増しされたウイスキーを飲んだような読後感でした。100ページ程度にまとめてもいいのではないかと思います。

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