AppleのAirTagの出荷が進んでいます。
AirTagはAppleの「探す」アプリを利用した落とし物追跡タグです。このタグを身の回りのものに付けておけば、「探す」アプリで見つけ出すことができます。「探す」アプリは膨大なAppleユーザーによるネットワークを利用しており、世界中に居るAppleユーザーの「誰か」が近くに居れば落とし物の場所を精密に特定できます。
落とし物追跡タグは数年前からいろいろな会社から販売されていますが、どれも鳴かず飛ばずの印象があります。AirTag同様にユーザー同士で見つけあう製品もあるものの、ユーザーの数がその使い勝手をはっきりと左右します。小規模の会社が多数のユーザーを獲得するのは難しいことですし、Appleのように最初から膨大な数のユーザーを使える会社とは勝負になりません。
一方、落とし物追跡タグは常にプライバシーへの重大な侵害が懸念されていました。簡単なことです。自分で買った落とし物追跡タグを他人の持ち物に忍び込ませれば、相手の居場所をリアルタイムに調べることができます。犯罪目的の場合、これほど便利なものはありません。
私は落とし物が多いので一時期利用していたことがありますが、上記のような懸念や電池の持ち時間の問題もあって使わなくなりました。
さて、AppleがAirTagを発表した当初、
「これは巨大駐車場で車の位置を探し出したりするときに便利なのでは?」
と思ったのですが、すぐにプライバシーの問題が気になり始めました。特に気にしたのは2点です。
- AppleはAndroidユーザーも保護していると言っているが、本当か
- 所有者の手元を離れたタグがブザーを鳴らすと言っているが、十分か
Appleのサイトにはポエムじみた宣伝文句しかありませんし、日本のメディアもAppleの言うことをそのまま垂れ流す提灯記事ばかりです。
japanese.engadget.com
しばらくは評価保留で神経をとがらせていましたが、ようやく海外のメディアによるレポートが発表されました。
japanese.engadget.com
まず、Androidユーザーの保護ですが
米国人の約半数が使っているAndroid端末ではそもそも警告が出ないとも指摘しています。
ということで、懸念した通り。
また、所有者の手元を離れたタグのブザー機能ですが、
さらに大きな問題は、音が鳴るまでの3日間に多くのストーカー行為ができる余地があること。その3日間のカウントダウンも持ち主のiPhoneに近づくとリセットされる可能性があるため、被害者とストーカーが同居している場合は音が全く鳴らないかもしれない、と指摘されています。
と、これも懸念した通りです。
大雑把に言って職場の同僚やクラスメイトがAirTagを使ってストーキングした場合、Androidユーザーは長期間気づくことができません。これ、かなりひどいですよね。
「危険な目にあいたくなければiPhoneを買え」
という脅迫的なマーケティングですよ。欧州あたりから制裁金を課せられるのでは。
技術の悪用については、よく「馬鹿が悪いのであってハサミは悪くない」といったことを言う人もいますが、巨大企業がその規模を利用して技術を使う場合、個人犯罪とは別物として考える必要があります。犯罪のインフラストラクチャから利益を上げる企業は監視する必要があるのです。
IBMやMicrosoftが巨大で横暴な企業と毛嫌いされたのも今は昔です。「オーウェルの1984年は来ません」と胸を張ってMacintoshを発表したAppleが、今やビッグブラザーそのものとなって我々を監視し、安全の見返りに金を巻き上げようとしています。