公開から実に35年経過しており、ストーリーにもアラが多いと言える映画です。とはいえその主題は古くはなっても、古臭さを感じさせないメッセージ性の強いストーリーが印象に残る作品です。
オリンピック開催を目前にしたロサンゼルス市。エアポリスのパイロットであるフランク・マーフィーは、「素行に少々問題のあるベトナム帰りのベテラン」としての地位を楽しんでいます。事件があれば地上部隊を加勢しますが、平時は望遠カメラ付きヘリコプターを使って女性の部屋を覗くなど、役得に手を出すことに躊躇がありません。そんな彼に市のトップを通して軍からの依頼がまわってきます。超低騒音飛行が可能で、赤外線ビジョン、高感度マイクロホン、ネットワーク機能搭載、視線入力射撃機能付きの最新鋭ヘリ、『ブルーサンダー』のテスト飛行の依頼です。しかし、このテスト飛行は実は直前に起きた市の少数民族保護担当者殺人事件と繋がる陰謀の一部なのでした。
ということで、公開は1983年。世が『オーウェルの1984年』に再注目していた時期でした。この作品では、背景に『少数民族を扇動して暴動を起こさせ、新型ヘリの武力鎮圧能力を市街地で検証する』という軍部の陰謀をおきながら、『テクノロジーによる市民監視への危惧』を重要なテーマとして掲げています。
もちろん主軸はヘリコプターを中心としたかっこいいアクションであり、特撮技術をフルに活かした見どころの多い映画です。超望遠カメラで撮影した、橋の向こうから上昇するブルーサンダーの姿は一度見たら忘れられないでしょう。また、高層ビルを盾にしたヘリコプター同士のガンファイトも、西部劇の歴史のあるハリウッドならではと言えます。
余生をなんとなく生きているだけの主人公が、陰謀を前にした時に正義感を取り戻す、というストーリーも鉄板といえます。
ブルーサンダーの「ささやきモード」は大変奇天烈なものであり、映画のタイトルバックで「この映画の技術はすべて実在のものだ」と表示さた時、世のヘリコプターファンは苦笑したものです。しかしながら、それを除けば、ブルーサンダーに搭載された技術は
- 赤外線ビジョン→当時から赤外線映像は可能だが、カーテンの向こうの映像を撮ることは今でも無理。ただし、レーダーを使えば壁の向こうの様子に人がいるか否かはわかるようになった。
- 高感度マイクロフォン→現代ではレーザーマイクロフォンで窓の向こうの会話を聞ける。
- ヘリコプターから電話→遅くとも90年台中盤にはSMR(日本で言う業務用無線)から一般電話網へ電話をかけることができるようになった。
- ネットワーク機能→現代では当たり前の技術。90年台後半には日本でもセルラー電話にモデム接続できるようになった。
- 視線入力射撃→当時から可能
と、それほど的を外していません。ビデオテープの内容を遠隔で消去することは当時は荒唐無稽に感じましたが、今では遠隔データの消去はごく普通のセキュリティ技術です。
ブルーサンダーが描く世界は、上質のSFにおける未来予測のようです。データバンクに個人情報を収めるのが政府だけでなく私企業になった点で、当時考えたよりも悪い未来が来ていると言えるでしょう。
アクションを楽しんでよし、当時の世相を楽しんでよし、と改めて作品の良さを堪能しました。
……テープはマーフィーがガールフレンドごと運べばよかったように思えますが、見せ場を作るためには回り道も必要ですね(苦笑)。