『ダンケルク』

映画『ダンケルク』を見てきました。

第二次大戦中、フランスを助けるために送り込まれたイギリス陸軍は、ドイツの猛攻に晒され、フランス軍共々総崩れになります。ドイツ陸軍から追い込まれたイギリス兵士を救い出すために1940年5月に行われたのがダンケルク撤退戦で、イギリスはヨットやボートといった民間の小舟まで数百隻を動員してドーバー海峡をピストン輸送し、イギリス兵とフランス兵を合わせて30万人撤退させました。

映画『ダンケルク』はこのダンケルク撤退戦を描いたもので、ダンケルクからの撤退を渇望する兵士たち、ボートを海軍に貸し出すことを良しとせず、自らダンケルクへとプレジャーボートを駆る民間人、そして撤退戦を空から援護するスピットファイアの小隊視点で描かれます。

さて、肝心の映画ですが、退屈でした。

史実としてのダンケルク撤退戦は「包囲」「30万人」「数百隻」といったキーワードからわかるように大変大規模なものでした。戦艦のような大型戦闘艦は出ていないものの、駆逐艦や客船が動員されています。また、霧に包まれた砂浜の上では、ドイツ空軍とイギリス空軍が死闘を繰り広げています。

しかし、映画で語られているのは、このうちほんの僅かな部分です。時間の制約を考えれば描写がごく一部になるのは仕方ないことです。であれば、CGを使えばいいのでは?と思うのです。しかし監督は極力CGを使わないことにこだわりがあったようです。

その結果、数十万人の兵隊が包囲されているのに、海岸には中学校の臨海学校程度の人数がぼんやりと立っているだけです。映画の冒頭こそ、多くのイギリス兵の上に急降下爆撃機が現れ、凄惨な爆撃が展開されます。ところが、それ以降、爆撃機は思い出したようにやってきて船に爆弾を落とすだけ。

クライマックスの小型船が浜辺に現れるシーンも、現れたのは数十隻程度の小舟です。史実が頭の片隅にあると、運ぶべき人数と船の数が吊り合っておらず、全くカタルシスがないです。こういうところくらいCGをつかって派手に水平線を埋めればいいと思うんですよね。観客が鳥肌を立てるのはそういうシーンだと思うのですが。

実物を使ったというスピットファイアのシーンは、さすがに息を飲む美しさです。しかし、古い機体であるせいか、派手な空中戦はありません。やたら間延びした飛行シーンの中で思い出したように撃つため、見ているうちに

「早く撃てよ!」

とフラストレーションが溜まってしまいました。

なんだか悪口ばかりですが、楽しかった点はもちろんあります。

一番気に入ったのは「プレジャーボート」でダンケルクに向かう親子ですね。ケンブリッジに出張した際も目にしましたが、イギリスらしいおしゃれが非常に様になっている初老の男性というのが大変かっこよかったです。形式美、様式美を大事にして生きてきたイギリス人という感じの大変素敵なおじさんでした。

また、そのプレジャーボートと、海軍の掃海艇*1の対比も面白かったです。片や小さな船ですが船室や操舵室を美しい木で仕上げたボート、片や任務のためだけに作られた軍艦。その対比は退屈な映画の中で目を引く部分です。

それから、イギリスを舞台とした戦争映画というと、やはり戦争に積極的に関わってくるご婦人ですね。ダンケルクまで民間船でやってきた女性たちが、恐れるでもなく、気負うでもなく、いきいきと描写されていたのが印象的です。第二次大戦では女性がイギリス軍において大きな活躍をし、後に女性の地位向上を大きく後押ししました。そんなことを思い出させるシーンでした。

そしてなんと言っても、撤退した兵士を迎える市民たちです。

「つばを吐きかけられるぞ」

と落ち込む若い兵士に、食事を差し出す市民。

「生きて帰って来ればいいんだ」

と毛布を渡す老人。

このシーンで気落ちしている若い兵隊たちが生まれる前、イギリスから多くの若者がヨーロッパの大陸へ赴き、帰ってこなかったことを老人たちは覚えています。そういった背景はプレジャーボートのオーナーにも言えることで、やや退屈なこの映画で光る部分でした。

ダンケルク』は良いシーンも多いものの、全体的には退屈です。スピットファイアが大好きなら見に行く価値はあります。

*1:掃海艇と字幕には書いてありましたが、そんなふうに見えませんでした