戦場にかける橋

言わずと知れた「名作」映画『戦場にかける橋』が年末にCATVで放送されていたので録画して鑑賞することが出来ました。
ちょっと一言で言い表せないくらいいろいろな事を考える映画でした。

ギャップ

そもそもこの映画がどのくらい名画かというと、私が小学生の時に同級生も知っていたくらいです。公開当時生まれていない小学生にすら有名だったのです。私には、この映画がテレビで放映されたときに小学校の修学旅行がちょうど重なってしまい、見ることが出来なかったと言う悔しい想い出があります。1976年のはずです。映画公開が1957年ですから、20年経っても小学生が知っているくらい知名度の高い映画でした。どこで知っていたんでしょうね。テレビ映画の評論家のコメントや、音楽番組で語られていたのを聞いたのかも知れません。ともかく、修学旅行中にホテルで見たかったものの、運悪く『赤い疑惑』の最終回にぶつかっていたためにチャンネル戦争に負けたのでした*1
ともかく、この映画の印象というと口笛のメロディが印象的な「クワイ川マーチ」です。映画の名前を聞いたことのない人でも、この曲は聴いたことがあることでしょう。大変陽気で気分が高揚する曲です。
ところが、今回ようやく見た『戦場にかける橋』は、陽気とはほど遠いものでした。主要な登場人物はおおむね四人。イギリス人捕虜のトップとなるニコルソン大佐、序盤すぐに脱走するアメリカ人シアーズ、捕虜収容所の責任者である斉藤大佐、そしてクリプトン軍医です。物語はニコルソン、シアーズ、斉藤の心の動きを追いながら進行します。カメラの視点とは違いますが、クリプトンは映画監督のメッセンジャー的な立ち位置でしょう。
イギリス軍人としての名誉を守るために一歩も退かないニコルソン、鉄橋建設のスケジュールを死守するために激しく部下と捕虜を叱咤する斉藤大佐には全く妥協点がありません。シアーズは早々にニコルソンに見切りをつけて脱走、クリプトンは死の淵に追いやられた斉藤とニコルソンの間を取り持って妥協点を探ります。しかし、その結果現れた日英共同作業は戦時下の勝者と捕虜の関係としてはきわめていびつな形になります。
この作品は2000年代の視点からすると、大変荒っぽいと言わざるを得ません。登場人物は類型的で合理性を欠きます。例え戦時下でもそんなことはしないだろうと言うことを名誉のために平気に行います。ハリウッド映画の伝統に従い、日本人の描写は妙ちくりん。正直、何故これが名作とされたのか、今の視点からは首をかしげざるを得ません。
ただ、幸いなことに私は年を取りました。映画を見る視点は若い頃と違うようです。

終戦から12年

重要なことは、この映画が撮影されたのが1957年だと言うことです。フルカラーに欺されそうになりますが、終戦からたったの12年です。そしてチャールズ・チャップリンらを追放した赤狩りがハリウッドに吹き荒れてから3年しか経っていません。この映画が公開されるたった3年前、アメリカでは公然とアメリカの戦争方針批判をすればアカのレッテルを貼られて公職や映画産業から追放される恐れがあったのです。そして、この映画が公開される12年前まで、アメリカはヨーロッパ戦線でイギリスと手を組んでドイツと戦い、太平洋では日本と戦っていました。
「日本」という言葉から血なまぐささが人々の記憶から去って折らず、また、ハリウッドでは政府不信が濃厚に漂っていた時期です。そういう時期に撮影された映画として考えると、この映画の「何もかもがばかばかしい」と思わせる終わり方は、実に時代性を考えさせます。

早川雪舟

もいひとつ。恥ずかしながら存じ上げなかったのですが、斉藤大佐を演じた早川雪舟さんは、アメリカにおいて映画産業の初期から有名であった俳優だそうです*2。この方は戦前からアメリカで活動していたため、当然ですが軍務経験はありません。そう考えると、作品中の日本陸軍大佐のなんとなく見ていて居心地の悪くなる振る舞いも納得がいきます。戦前からアメリカの日本人コミュニティで一時は売国奴と呼ばれ、戦時中はフランスでレジスタンスに協力したという彼ですが、アメリカにおける日本人収容所の話は他の日本人から聞いたことでしょう。当然、アメリカ人からは戦地における日本人の行いについても聞いたはずです。
戦争から12年、常に難しい立場にあっただろう彼がどのような気持ちであの役を演じたのか思うと、なかなか考えさせられます。

複雑な気持ちになる映画

『戦場にかける橋』は、描写が表層的で登場人物の言動も首をかしげるようなものが多い映画です。正直言って、映画単体で評価するとこの作品が名作と呼ばれる理由が私にはわかりません。しかし、撮影された時期を考えれば、この映画を撮影したこと自身が一種快挙であったのだろうと思えます。『ゴジラ』同様、時代性を考えながらじっくり見る映画なのかもしれません。

*1:バスの中では「今日は山口百恵三浦友和がチューするぞ」と、友達が盛り上がっていた

*2:日本人俳優として、ではなくて