台風は風を吹き出している

台風が強力な低気圧であり、周囲の空気を猛烈な勢いで吸い込んでいることはよく知られています。吸い込まれた風は地球の自転によるコリオリ力の影響を受け、渦を形成します。
earth :: a global map of wind, weather, and ocean conditionsに行くと、任意の投影法による地図の上に、気象情報を重ねることで、この壮大な空気の流れをリアルタイムで把握することができます。
たとえば、今日の台風8号はこんな感じです。

サイトに行って動画を見ればよりわかりやすいですが、中心に向かって反時計回りの風が吹き込んでいることがはっきりとわかります。興味深いのは台湾やルソン島が風をさえぎっている点で、風下は明らかに風が弱くなっています。
さて、このサイトでは風の流れを高度別に見ることができます。上の画像は地上の風です。
では、同時刻の高いところの風はどうなっているでしょうか。たとえば、気圧が850hPaでの風*1は下の図のようになっています。

多少わかりにくいですが、よくよく見ると、中心から反時計回りの風が吹き出しています。台風から風が吹き出しています!!
これは少し考えればあたりまえのことです。台風には風が吹き込んでいますから、どこからか風が出て行くのは当然です。台風では高度の低いところから風が入っていき、高いところから出て行っています。そしてこれは台風の仕組みを理解するうえで、重要な鍵なのです。
台風の中の湿った空気は、雨を降らせることで水蒸気から熱を受け取ります。水蒸気は水に変わるときに凝結熱という熱を放出しますが、これが空気を加熱します。その結果、空気は膨張して軽くなるため、上昇を開始します。上昇することで上昇する間も水蒸気は雨へと変わり続け、熱を出します。
この空気の上昇は海面上の湿った空気をさらに引き上げるため、台風の内部では雨が降り続きます。
一方、雨を降らせて乾燥した空気は暖められて上昇しますが、いつまでも上り続けることはでききません。成層圏の底を持ち上げるような勢いはあるようですが、基本的には逃げ切れませんのでどんどん外部に吹き出します。これが外向きの渦で、台風の上部は我々が見ている底部とことなり、外向きの風が渦をなして吹いています。
上の図は気圧が850hPaの等圧面の流れです。これはおおよそ1000mから1500mの高度のようで、そう考えると「台風の風は内向きに吹き込む」というのは、想像以上に扁平な渦をさしていると言えます。対流圏の高さは10kmですから、台風の内向きの渦はその1/10程度の高さでの現象ということになります。
さて、外向きの風がどんどん出て行くため、上で述べたように台風内部の湿った空気が引き上げられてさらに雨が降ることになります。結果的に台風の気圧はぐっと下がり、周囲の空気を引き込みます。これが内向きの風になるわけですが、海面温度が高い場合はたっぷりと水蒸気が供給されます。これがさらに新たな雨となって凝結熱を供給します。
こうして、台風は暖かい海面上の水蒸気が供給される限り、凝結熱を受け取って周りの空気を吸い込む巨大な熱機関として維持されます。この熱機関は海面が途絶えたり、あるいは海面温度が下がると急速に弱体化して温帯低気圧となり、やがて消えていきます。
昔は台風といえば、とにかく夏から秋に吹く強い風としかとらえられなかったわけですが、今では可視化され、それも高度ごとの挙動を目で見ることができるようになりました。活用すればいろいろと知見を広げることができます。大変な時代になりましたね。

追記

ちょっと焦りましたが、間違ったことは書いていませんでした。ですが一つ見落としていたことがあります。
「上層では反時計回りの風が吹き出している」
これって変ですよね。北半球では風が吹き出す場合時計回りになるはずです。反時計回りは吸い込む場合です。というと、コリオリの力より強い力で反時計回りになっているわけですが、これは何が原因でしょうか。下層の反時計回りの渦に引きずられて、というのはいかにもありそうです。角運動量が保存されている?それは違う気がします。
追記:http://d.hatena.ne.jp/suikan/20160919 に後日談を書きました。

*1:気象では、等圧面で風を考える