Tigerfibel

ここ数日、インフルエンザでダウンしていました。ダウンといっても最近は新薬のおかげで治療を受ければ次の日には気分は改善しています。ただ、法定伝染病なのとウィルスが消滅したわけじゃないので家族にうつさないようベッドでおとなしくしていました。
暇でした。
で、ネットで遊んでいたのですがそこで行きあったのが Tigerfibel (タイガー戦車入門)という、ドイツ陸軍公式文書です。これはタイガー戦車の乗員向けの初等教本で、なんとAmazon.comで買えます。Kindle対応。21世紀万歳なのか、それとも敗戦国の悲哀なのでしょうか。ともかく、kindle版を買いました。たった300円です。

Amazon.comの本なので、Kindle版ならGoogle Chrome Readerを使ってWEB上で読むことができます。さっそく読んでみました。
まず、この本、日本では「Tiger戦車を擬人化して乗員に整備させる」とかまことしやかに書かれていますが、そんなことはありません。若くて気の散りやすい兵隊の気を引き付けるために、ページ内の言葉と関係ある適当な女性イラストが散らしてあるだけです(最終課程を終えるとその美人と仲良くなれると思わせるイラストはある)。擬人化云々はさすがに考えすぎです。この本、そういった若者向けの気のひき方のほかにもいろいろ工夫が凝らしてあって、たまに技術文書を書く身としてはなかなか興味深い点がありました。
たとえば、戦車は装甲板でおおわれているわけですが、

  • 装甲板は四方にある
  • 正面装甲が最も厚い
  • 後面と側面は同じ厚さ
  • 装甲板は垂直に打たれると最も弱い

といったことを列挙した後、結果的に、Tiger戦車の装甲を敵が打ち抜ける領域を描くと「クローバー型になる」と、戦車を中心とした位置関係を示します。そして、そのクローバーの大きさは敵の火力の強さに比例します。また、敵の正面、側面、後面装甲の厚さによってTigerが敵をうちぬける距離が変わります(装甲が厚い敵ほどひきつけて撃たなければならない)。
こういったことを説明した後、本書は見事なくらい簡潔な3つの数字で敵戦車を符号化します。たとえばソ連主力戦車T34の場合は15-8-43で、

  • 側面後面のクローバーは1500m。これより近くに近づける場合には、自戦車の向きをずらして敵をクローバーから追い出す(装甲を斜めに向ける)
  • T-34の正面装甲を撃ちぬける距離は800m。敵が正面を向けているときはここまでひきつけて撃つ
  • 側面を向けている戦車は種類を問わず2000mの距離で撃破できる
  • 敵が正面を向けているとき、スコープの読みが4メモリなら撃破できる(距離800)。側面を向けているとき、スコープの読みが3目盛りなら撃破できる(距離2000)

こういった感じで、敵の車影と3つの数字を覚えれば、自分がどう戦うべきか判断できます。
ちなみに、M4戦車の場合8-8-43で、クローバーが小さいのでわざわざ正面を向けずとも、ちょっと側面の角度を変えてやって、あとは砲塔を回転させて近づいたところを撃てばすみます。チャーチル戦車に至っては7-15-24で、これは危険距離に敵が踏み込む前に確実に撃破できることを示します。
こういった戦闘面の話のほか、

  • ソーセージの切り方で断面の長径が変わるイラストを見せて「だから装甲は斜めに向けたまえ」
  • 「1リットルの燃料をエンジンで爆発させればTigerにとっては30秒間の心地よいマッサージだ。だが、エンジンの外で爆発させれば砲塔が吹っ飛ぶぞ」
  • 「水は冷却材だが、凍らせると配管が破裂するぞ」
  • 「燃料が切れたらすぐにエンジンを切れ。30秒の手間を惜しむな。本当に燃料がなくなったら、配管を分解しない限り再給油できない」

などなど、この最新、最強にして繊細な重量級の戦闘機械を日々動かし続け、勝ち続けるためのノウハウが見事に解説されています。
説明文書を書くということに関していろいろ考えた一冊でした。