太平洋ひとりぼっち

小学生のころ、「図書」という時間が時間割にありました。
一クラス全員が図書室に移動し、本棚を物色して好きな本を読み、借りる本を決めるという時間です。借りる場合には代本板というものを借りる本の位置に差し込んでおきました。返すときに間違わない用にです。図書の時間が大好きで、いろいろな本を読みました。
中でも、幾冊かの本には強い印象が残っています。片っ端から呼んだ伝記物の中で一際印象の強いパスツールの鶴首フラスコ実験の鮮やかさ、ジュブナイル版「海底牧場」、ドキュメンタリ「東京オリンピック」そして、太平洋単独横断なんてことができたのかと驚いた「太平洋ひとりぼっち」などです。

太平洋ひとりぼっち

太平洋ひとりぼっち

この本は、20代半ばでヨットによる単独太平洋横断に挑戦した堀江謙一氏の手記です。初めて読んでから1/3世紀以上たった今、記憶に残っていたのは「すごい本を読んだ」という強い印象だけでした。再読後の印象は、いやはや、すさまじい人です。
この本から受ける著者の印象は、強烈です。本人が書いているように負けず嫌いであろうことは強く感じますが、それ以上に強い自己を感じます。それは冒頭をはじめとして何度か現れる「…と報じられているが、俺はそんなことは言っていない」という記述や、「…といわれているが、俺はこの方法でいく」といった記述に見て取れます。
特に後者は、小型のヨットで大洋を横断するという破天荒な試みを実現する上で、何度も必要になったであろう強い決断が求められる場面を乗り越えるにあたって、必要であったろうと思わせます。学生時代に太平洋単独横断を決めた後、仕事も私生活も全部その目的のためだけに形を変えるという激しい気性でなければ、若くして単独横断になど出ることはできなかったかもしれません。
彼が太平洋に乗り出した62年という年は、高度成長が始まった年です。戦争の影響もずいぶん薄れ、まじめに働けば一生くいっぱぐれないという空気が日本に広がっていたであろうころの冒険譚です。
ヨット設計者があとがきに寄せた「彼は鎖国を終わらせた」という一文が印象的でした。