ビブリア古書堂の事件手帖

この夏は米澤穂信にすっかりはまっていたわけですが、同じ「日常の謎」系ということで似鳥鶏*1という方の小説を読みました。
買ったのは出張に出たときのことです。乗換駅で慌てて飯をかっこんだあと、駅ビル内の本屋で一冊だけおいてあるのを手に取りました。本当はシリーズ第一作の「理由合って冬に出る」を読みたかったのですが、おいていたのは三作目の「まもなく電車が出現します」だけです。店員さんに聞いても在庫はないとのこと。仕方ないのでその本をもってレジに並びました。
さて、順番を待っている際、レジの上に陳列されている本に目が。線の細い感じの長い黒髪の女性が本を読んでいる絵の小説です。女性の周りにはうずたかく本が積んであり、帯には「鎌倉の叙情あふれる町を舞台に描かれるビブリオミステリ」と。ちょっとミステリの分野に興味があったのでどうしようと逡巡したのですが、結局は買わず。それが3週間ほど前のことです。
さて、今期バカアニメ枠のダークホースとして注目される「ベン・トー」の原作を読んでみようかと今日本屋に立ち寄ったところ、再度件の本に対面しました。平積みです。よほど、売れているのでしょうか。「ベン・トー」を買えなかったので、結局気になっていたその本を手に取りました。
今、読み終わったところです。

主人公は23歳。
内定していた就職先が倒産してあえなく就職浪人となってしまいました。無駄に終わる履歴書の数々に心折れそうになっていた頃、祖母の本が処分されかかっていることに気づきます。それは彼を「本を読めない体質」にしてしまったある事件の記憶と細い糸でつながっていたのでした。
この小説は鎌倉にある「ビブリア古書堂」の女主人と、彼女と偶然知り合うことになった主人公の物語です。形式としては安楽椅子探偵、つまり、ヒロインである女主人篠川栞子が病室から動かずに本にまつわる謎や事件を読み解いていき、主人公はそれを助けるためにいろいろな情報を持ってくる役目です。4章からなりますが、それぞれの章ごとにゲストとなる本が現れ、それら古い本一冊一冊にまつわる歴史や想いが丁寧で落ち着いた筆致で描かれています。
全体的に読みやすく軽快な文章ですが、何と言っても魅力なのは「古本」という、題材を中心に持ってきたことでしょう。古本屋には新刊書籍を扱う本屋とはちがう雰囲気があります。それは一種独特の乱雑さであったり、店主の趣味や専門をこれでもかと反映した取りそろえであったりします。一方でこの本は「古本にも歴史がある」と言います。それぞれのエピソードはそんな古い本に書き込まれた落書きや、蔵書印、筆者の直筆コメント、そして所有者の思いを丁寧に描きつつ、終盤、ヒロインの怪我の謎へと切り込んでいきます。
著者がライトノベル作家であるためでしょうか、幾分人物の造形が類型的でありすぎる気がします。ヒロインは線の細い黒髪の美女で、書籍に関する膨大な知識を持つというスーパー深窓の令嬢設定ですが、その一方で商売人でありながらまっとうな会話が成立しないほどの人見知り。しかしに書籍のことになると我を忘れてしゃべるという無邪気さも持っています。隙のない男はモテないそうですが、このヒロインには間口二間くらいの隙が用意してあります。おまけに巨乳。あざとすぎるくらいキャラが立っています。
対する主人公は本好きなのに本を読めないというアクロバティックなキャラで、ヒロインと好対照の強面の巨漢。はじめから読者が二人の関係の進展にやきもきできるようお膳立てがそろっています。
謎解きものでありながら、登場する人々の機微を丁寧に描いた良作です。ビジネス的にも派手なスタート・ダッシュこそ無かったものの、コンスタントに売れているようで、3月25日初版のこの作品、私の手元の一冊には10月5日 第10刷とあります。
25日には2巻が発売とのことで、すでに予約済みです。おすすめ。

*1:にたどり けい

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