23 きつねのはなし

この作者の小説が気に入って、これで読むのも三冊目です。これまで読んできたスラップスティックな作品群と打って変わって、こちらはホラーに属するものです。

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

4編収録の短編集です。いずれも京都を舞台にした不気味な話。硬質な文体にも磨きがかかり、主人公の一人称視点で語られる日常の描写に古い家の柱のような味わい深い落ち着いた色合いを出しています。
いずれの作品にも蓬蓮堂という骨董品屋が現れますが、役回りが異なります。また、「四畳半神話大系」同様に各短編に同じ人物、あるいは同じと見られる人物が現れますが、同一人物とは言い切れない描写になっており、物語の不気味さを静かにあおるうまい構成になっています。
文体が落ち着いており、いずれの短編も知的な大学生の一人称視点で語られているため、出だしは古い文学小説を読むような味わいがあります。でありながら、物語の中に立つ小さなさざ波は、ゆっくりとその振幅を大きくしながら読むものの心をあおり立てます。果たして主人公が目の当たりにするのは古都の片隅に息づく魔物なのか、統合失調症患者の作り出す錯綜した夢なのか。ついつい時間を忘れて引きずり込まれてしまう短編集でした。
お奨めです。