友人のSは京都出身です。その彼の実家に遊びに行ったことがあります。加茂川べりを歩いて街へ出、酒飲んでカラオケに行って、別の席のカップルの女の子*1に色目を使いながらオフコースのYes-Noを歌ったのは良い思い出です。
帰りの道すがら、夜中の医科大学*2のあたりで「俺はZちゃんが好きだ!だけどあきらめるぞ!」と大声を出したのも良い思い出です。
さて、Sは「こっちが近道や」と、私を森の中の道に連れて行きました。たぶん下鴨神社の糺の森*3だったのでしょう。その時「おおう、百鬼が夜行するならこんな所か」と思わず口を突いて出たのも良い思い出です。
私にとって京都はそういう気分にさせる不思議な街です。いや、色目とかZちゃんとかじゃなくて、百鬼夜行の話ですよ。
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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必然的に、この小説が向かうところはラブコメです。
これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の座を手に出来ずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよろしかろう。
願わくは彼女に声援を。
ほどよく知的な馬鹿馬鹿しい会話や、夜の先斗町で只酒の梯子をする謎の一団、詭弁論部の詭弁踊り、欲望渦巻く糺の森古本市、学園祭を席巻する韋駄天こたつ、偏屈王事件……。言葉でいい表せないほど馬鹿馬鹿しくも素敵なストーリーが不敵な登場人物達によって進められます。
こういう下手をすると奇書になりかねない小説の場合、読者への道しるべとして「あとがき」が重要なのですがそれを任された羽海野チカさんは見開き2ページの漫画を書く始末。何の説明にもなってねぇ!かくて読者は嵐の海に取り残され、作者が織り上げるストーリーにしがみついて読み通すしか有りません。
すばらしく楽しい本でした。
老若男女、脇見運転を読んでくださるすべての方にお奨めの一冊です。