40 夜間飛行

ライト兄弟の「フライヤー」がキティーホークの砂浜から離陸したのが1903年、ソッピース社の「キャメル」が欧州の空を舞ったのが1916年、リンドバーグの「スピリッツ・オブ・セントルイス」が大西洋を単独無着陸飛行したのが1927年。
そのリンドバーグが郵便輸送機のパイロットをしていたと伝記で読んだとき、まだ小学生だった私には郵便配達のノンビリしたイメージと冒険飛行のイメージが違いすぎて戸惑ったのを覚えいてます。

夜間飛行 (新潮文庫)

夜間飛行 (新潮文庫)

1931年(昭和6年)に書かれたこの小説は、南米とヨーロッパを結ぶ航空郵便事業に関わる人たちの、ある晩を描いています。郵便輸送という言葉のイメージとは裏腹に、たった200km/hしか出ない「快速機」にのり、コンパスと時計と地図と速度計を頼りに1500km以上も夜を飛ぶその仕事は、まさに冒険です。途中の飛行場での休憩はわずか5分。通信士が使っているのは巻き上げ式アンテナと電信式通信機。
予測できない気象現象に巻き込まれ、翻弄されるパイロットのファビアンと、航空郵便会社を運営するリビエールが主な登場人物ですが、なによりこの小説を魅力的にしているのは、その地理感覚の描写です。

開かれた窓の前で、彼は夜を認めた、夜はブエノス・アイレスを包んでいた、夜はまた大きな屋根のような米大陸をも包んでいた。彼はこの偉大さの前に驚異は感じなかった、チリーのサンチャゴの空は、外国の空には相違なかったが、一度会社の飛行機がチリーのサンチャゴへ向けて出発したが最後、この航空路の端から端までが同じ一つの大きな屋根の下のように一つになって呼吸した。

地形を読むための灯りを奪われたまま飛行する夜間郵便機のために、1500kmの航路全体にわたって飛行場、有線連絡網、無線電信通信網が用意され、それらが活き活きと一つの生物のように働いて夜を克服しようとする様が、みずみずしく描かれています。
すこしポーズが鼻につく描写もあるのですが、あるいは最先端の仕事が雄々しさと気高さを人に求めた時代だったのかもしれません。
お奨め。

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