玉蔓十帖の後半です。今回のネタばれは特にひどいので皆さんお覚悟を。
長い筑紫暮らしの後、地方豪族の求婚を逃れてほうほうの体で上京するも、玉蔓は源氏にとらえられて軟禁状態になり実父に会うことも出来ません。
- 作者: 瀬戸内寂聴
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/15
- メディア: 文庫
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当時としては、すでに理想的な婚期を逃しています。つまり、紫式部は玉蔓に特殊なシチュエーションを与えることで、彼女に「貴族的な美貌と教養」と「自分で考える力と価値観」という二つの特徴を与えています。その結果がこれです:
- 実父には会いたいが、いまさらあったところで妾腹、田舎育ちの自分をまっとうに扱ってくれるはずもない。
- 源氏の君の庇護はありがたいが、言い寄られるのは鬱陶しい。
- 求婚者は何人も現れるが、いまいちぱっとしないし、踏ん切りもつかない。
- 宮中勤めの話はありがたいが、いまさら帝の恩寵を受けることになっても居並ぶ育ちのいい姫の末席という扱いは嫌。
こうして悩むうちに、「私の誠意を信じないのか」と距離を縮めてきた源氏に御簾の中を許し、挙句の果ては「なにもしないから」といわれてとうとう養父と添い寝までしてしまい、女御たちを狼狽させます。
結果、一ページめくってこちらが狼狽することになるのですが、こともあろうにあれほど野暮とこき下ろされていた髭黒の少将に夜這いをかけられ、いやいや嫁入りする羽目になります。これで宮中勤めの話はパァです。しかも、パァになったはずが、玉蔓の君の美貌のうわさに未練の残る帝は「まぁ、結婚したんならしょうがないけど、既婚者が事務職をやっちゃいけない理由はないし、勤めてみない」と、言い出す始末。手を出す気満々です。まさに踏んだりけったり。
「さっさと求婚者の中から一番いい人に妥協しておけばよかったのに」
と、紫式部のあざ笑う声が聞こえそうです。
源氏物語は容姿の優れない女性や、家筋が最高品質でない女性に対して非常に手厳しいです。後者は社会的なシステムがそうなっていたのでしょう。前者に関しては、たぶん目に留まった美人をすべて手元に置くことが出来た権力システムが、女性が女性の容姿を笑うような雰囲気を作ったのではないかと想像できます。しかし、
「やぁね、いき遅れって、うふふ」
とでも聞こえてきそうなこの不快感は何でしょうか。なんとも後味の悪い巻五でした。