旅人との遭遇

2077年9月11日、ヨーロッパ上空で大気圏に侵入した小惑星は北イタリアの平野に衝突し、多くの人命と共に人類の文化遺産を葬り去ってしまいます。これを受け、スペースガードが結成され、地球に接近する小惑星をしらみつぶしに探す活動が始まります。
スペースガードは実在の財団の名称です。それは1996年にヨーロッパで設立され、世界の同様な組織と連携して小惑星衝突の脅威から地球を守るべく夜空を監視しています。
しかし、冒頭の筋書きから始まる小説をクラークが書いたのは1973年です。そして、実在するスペースガードの理事には彼の名が記されています。ハードSFが事実を予見した多くの例の一つです。

宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))

宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))

スペースガード設立から50年、太陽系外から来たとされる小天体がそのレーダーにかかります。望遠鏡から解析された異様な光度曲線が注意を引いたことから、観測衛星が飛ばされ、接近を敢行します。すれ違いざまに撮影した写真にはぐんぐん大きくなるシリンダー型の人工物体が写っていました。人類が遭遇する初の太陽系外知性体の製造物でした。
太陽系を通過するだけの双曲線軌道を描くと分かったことから、一回限りのランデブーが急ぎ計画されます。付近を航行中だった宇宙船からエンデバー号が選ばれ、急作りの探検隊としてラーマと名づけられた宇宙船(?)への接近、進入を試みます。
クラークとしては一番油が乗っているときの作品です。謎の宇宙船ラーマは、果たして亜高速船なのか、超高速船なのか。亜高速船だとすると、推進方式はどうなっているのか。見当たらないエンジン、どこにもいない乗客、倉庫らしき建築物、非対称な岸壁。
例によって、太陽系外宇宙船に関する最低限の仮説を立てた後、クラークは科学的な推論に基づいてどのような冒険が待っているかを読者に披露します。湾曲した海、非球面世界での嵐*1、低重力下での航空探索。
魅力的なガジェットや探索を次々と披露しつつ、そこに人間の駆け引きを置くのがクラーク節です。謎の知性体からの意図不明な宇宙船を好ましく考えない水星植民地は、ラーマに対して強行な手段で打って出てきます。
「渇きの海」を髣髴とさせるハードな設定の本作は、手放しでお勧めできる一冊です。

*1:ニーヴンの「リングワールド」でも描かれた

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