救いを拒絶する

藤田和日郎の作品には救いを拒絶する人物が頻繁に顔を出します。「うしとら」の鏢、秋葉流、凶羅、「夜に散歩しないかね」の主人公、「瞬撃の虚空」のサキサカ・ケンジロウ、「邪眼は月輪に飛ぶ」の鵜平などなど、あるものはしくじりから、あるものは道を踏み外してしまったことから、救いの手を差し伸べられても薄い笑みを浮かべて顔を背けてしまうような人物のオンパレードです。
で、この本の主人公もそう。

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

講談社系初登場の短期連載作品をまとめたものです。
大金持ちなんで、別に救ってもらう必要もなさそうだし、本人も昔の悪行を悔いるそぶりすら見せません。でもいざと言うときに身を引いてやんの。人々が幸せそうに笑っている裏で、血みどろの戦いを人知れず行うという、藤田ワールド全開の作品です。とまぁ、表題作に関しては感想もこれだけですが*1、すばらしかったのは関連作として短期連載された「マザア・グウス」のほうです。
育ちのよい坊やのところに突如現れた、ずたぼろの服をまとった強気な女の子。坊やの家がかつて親戚の家だったと言い張り、倉庫に眠っているはずのあるトランクを探します。そのトランクに収められた物騒なものとは…。
前後編と短い中で、写真術のようなテクノロジーと怪人のような迷信かがりのものが絡み合った世界を19世紀ロンドンを舞台にうまく描いています。ストーリーも、元気な少女がおとなしい男の子を振り回しつつも、少女が失速して絶望したときに、突如おとなしかった男の子が勇気を見せるという、王道。しかも、その男の子が暴いた悪人の謎がすばらしい。
(そこでそれを持ってきたかーっ)
と、あまりのうまさに頭を抱えて喜びましたよ*2。大団円も、あくまでかっこよく、あいかわらず藤田はうまいなぁと感心した次第。もうひとつ、藤田ファンとしてうれしかったのは、少女の描写です。もともとこの人は少年漫画でもサービス・カットが多く、少女の健康的なハダカをよく描いています。が、今回は青年誌とあって、まだ成熟していない少女の体が持つ魔女性を存分に描き込んでいます。話の筋とあいまって強烈なカットでした。お得な一冊です。
正月ごろに読んで感想を書こうとおもっていたのですが、なかなか書き出せずにいました。今頃書いたのは昨日紹介した3Toheiさんのエントリー、石ノ森マンガをリバイバルさせるなら、どのマンガ家?を、読み返していてふと「藤田和日郎はどうだろう」と思ったからです。熱い漫画で知られていますが、陰のある人物もうまいんですよね。青年誌でキカイダー描いて欲しいな。

*1:ミステリアスなキュレーターが藤田のパニック娘風キャラになっていったのが残念。ははは

*2:ちょっと過大評価かも。メスマーの名前を知っているかどうかでこのシーンの評価は大きく変わるはず